「日本との戦争はない」~ロシアから意味深な日本へのメッセージ
◆表面上、「対ロシア強硬姿勢」に見える日本とロシアとの間で断たれない経済関係
先般、鈴木宗男参院議員が議会事務局の了承を得ながらも所属していた日本維新の会への届け出を怠ったままロシアに赴いたことで、党を除名された。マスコミでも批判的論調がかなりあったが、何も日本はロシアと戦争をしているのではないことになっているのだから(交戦国の一方に軍事資材=自衛隊装備や資金を供給するのは事実上の参戦行為だが)、国民から選ばれた代表たる政治家・国会議員が自己の判断で当該国に訪れて、政府や議員などと意見交換することを、まるで違法行為のように指弾するのははなはだ見当違いに思えてならない。
「ロシアと日本の関係は重要であり、話し合いのパイプは維持した方がよい」など、鈴木議員の訪ロについて冷静な意見も見られたのは、ここのところ米国いいなりでカネもモノもウクライナに引き渡す岸田文雄政権の姿勢に国民の間でも疑念が生じてきたことの反映だろう。そして、メルマガ時代の「インテリジェンス・ウェポン」でも指摘したことだが、G7諸国レベルでのロシアに対するかつてない規模と内容の経済制裁措置、たとえば対外貿易決算システムからの排除までが行われている中、日本はロシアとの共同開発プロジェクトである油田・ガス田「サハリンー1」「サハリンー2」の事業参画を維持し続け、これについては他のG7諸国から「制裁対象から除外」という言質をとっている(何を代わりに引き渡したのかはわからないが…)。
その上、ヨーロッパ・ロシアにおけるエネルギー資源開発プロジェクトにも日本は継続的に参画を維持している。ロシア北西部・北極圏のヤマロ・ネネツ自治管区での「ヤマルLNG」プロジェクト(天然ガス採掘事業)でロシアの天然ガス開発会社ノワテクと提携して、既に2019年から天然ガス供給が日本に対して開始されている。さらに新たに白海のコラ半島地方での天然ガス開発への参画と産出するガスの日本供給についても、既に日ロ間の合意が昨年、正にウクライナ戦争の最中に成立している。
これらについては、「インテリジェンス・ウェポン」取材・調査チームはずっとウォッチしており、新しい動向が判明したらnote版でも取り上げていきたい。ところで、こうした折にロシア上院(連邦院)の議員から、「日本との戦争はない」というコメントが伝わってきた。ロシアのポータル・ニュースサイト「NEWS.ru」に報道されたもので、クリミア選出の上院議員で同国際問題委員であるセルゲイ・ツェコフ氏が述べたものだ。
◆「日本との軍事対立はない」と述べたクリミア選出上院議員。
読者が御存知の通り、クリミアは2014年のキエフでのネオナチ・クーデター政権の成立と国内混乱(ロシア系住民の排除や虐殺事件発生)を受け、ウクライナからの分離・独立とロシア連邦加入を住民投票を経て実行した。これについては、「ロシア軍の軍事的圧力下で行われた住民投票であり、無効だ」とする西側諸国を中心とした主張で国際的承認を国連レベルでも得られておらず、また、これを機に対ロシア制裁が始められたという点で、今日のウクライナ戦争に連なる端緒の出来事の1つといえるだろう。
そうした意味で、住民の8割をロシア系が占めるクリミアから選出された議員であるツェコフ氏は、クリミアのロシア編入と共にその後のウクライナ戦争を巡っても日本が対ロシア制裁に参加し、なかんずく現在のロシアの交戦相手であるウクライナ側を物質的にも財政的にも支援していることについて、不満を持っているのは間違いない。特に昨年3月から岸田文雄政権がそれまでの「武器輸出基準」(防衛装備移転3原則)の適用ルールを無理やり変更してまで、自衛隊装備の数々(火器を除く車輌、被服、防弾装備や野外装備)をウクライナに供与したことは、事実上の「参戦行為」に等しく、過去の軍事行動に関する国際法に照らせば、日本の行っていることはロシア側に敵対するものであるのは間違いない。
しかし、それでも敢えてツェコフ上院議員が「日本との間に軍事対立はない」と現時点で述べたのは、何故なのか。そのメッセージ性を考えてみる必要があるのではないか。
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