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「投資」という日米首脳会談で使われた方便が生んだ波紋——USスチール買収を巡り「実態との乖離」を押し付けられた日本製鉄



【画像① 石破茂首相はトランプ大統領との首脳会談(2月8日)の成果として「USスチールは日本製鉄による買収ではなく、投資ということで合意できた」ことを成果として誇っているという。米保守系議員らの間に経営権掌握をともなう「買収」に「安全保障上も望ましくない」として反対の声が高く、トランプ氏もこれに同調していて日米間の懸案に発展しかねなかったからだが、日本製鉄にとっては頭越しのやりとりで蚊帳の外に置かれ、「カネだけ出して経営に口出しできない」かのような状況の後始末だけ押し付けられることになった。】





◆「買収」を「投資」にすりかえ~喜んでいるのは習近平主席?


日本製鉄によるUSスチール買収が、米トランプ政権の意向を汲んだ「投資」へとすり替えられたことで、同社の計画は大きな矛盾に直面している。事の発端は、石破茂政権が「買収」を「投資」と言い換え、首脳会談でトランプ大統領に売り込んだことにある。日本政府は日本製鉄との間で十分な事前調整をしていた訳でもなく、事実上、日米間のやりとりについて当事者である同社は”蚊帳の外”に置かれた格好だ。


日本製鉄は、USスチールを完全子会社化する計画を掲げていた。もちろん、USスチール側もこれに応じた形で同社の傘下での経営立て直しを企図していた。この計画は国際的な鉄鋼市場への影響力という面でも、大きな意義があった。現在、世界の粗鋼生産量ランキング3位は中国の鞍山鋼鉄集団であるが、日本製鉄がUSスチールを買収して経営権を握れば、同社がランキング3位にのし上がり、鞍山の方は4位に下がる可能性が高いものと見られていた。


ところが、この度の日米首脳会談でトランプ氏は「買収ではなく投資」という言葉を額面通りに受け取り、「日本側のコントロール下には置かれない」と解釈した。これは日本製鉄が狙っていた「完全支配」とは相容れない。そして、実際に「買収」とは異なる仕切りにすれば、粗鋼生産量が日本製鉄(2022年、4437万t)がUSスチール(同、1449万t)と合計されず、鞍山鋼鉄集団(同、5565t)を追い越すことができないことになる。


今回の日米首脳会談が「買収」ではなく「投資」で決着させられたことについて、鉄鋼関係者や国際的な投資筋からは「喜んでいるのはトランプ氏よりも、中国の鉄鋼業界の安泰が守られた習近平主席なのではないか?」との声が上がっている。ちなみに2022年の粗鋼生産量ランキング1位は、中国宝武鋼鉄集団の1億3284万tだ。


◆「出発点は、あくまで合併」~日本製鉄・今井正社長がコメント


もっとも、「投資」という表現は、日本政府側がトランプ氏の反発を避けるためにひねり出した言葉に過ぎず、「買収計画の本質は何ら変わっていない」と説明されている。それでも、米側に「買収ではない」と認識させてしまったことで、日本製鉄は自らが描いてきたシナリオを大きく狂わされてしまったのも事実だ。


2月25日、日米首脳会談後初めてコメントした日本製鉄の今井正社長は、「出資と設備投資というものはバラバラに切り離して考えることはできない」「基本的な出発点=スターティングポイントは、(USスチールとの)現在の合併契約になる」と、USスチールとの一体化=後者の子会社化がプランのベースであることを強調した。その上で「トランプ大統領に了承してもらうために何ができるか、米政府と話し合う」としている。


【画像② 日米首脳に「買収計画」を「ただの投資だ」と頭越しに言い換えられてしまった日本製鉄の今井正社長は、25日に初めてコメントし、「出発点はあくまでUSスチールとの合併だ」と述べた。】





結局、石破首相らは自分たちが繰り広げたディールの後始末を、ろくに相談すらしなかった当事者企業に押し付けてしまったのだ。この動きを作った人物が、実はいわくつきの経済産業省幹部だった。


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