ヴァンス副大統領候補は”ミニ・トランプ”?~極端な政治指向と舌禍で海外をもかき回す”右腕”、異色の経歴とインド系ファミリーの影
◆「英国は世界初のイスラム主義核保有国」発言であわてたジョンソン元首相
7月13日の銃撃・暗殺未遂事件を経て同15日に開催された共和党大会(ミルウォーキー市)に出席したドナルド・トランプ前大統領は、「神の摂理」コールの後押しを受けて文句なく同党大統領候補指名をかちとった。あわせて、年の差40歳、弱冠39歳の上院議員(オハイオ州選出)のジェームズ・デイビッド・ヴァンス氏が副大統領候補に指名された。
ヴァンス氏は22年中間選挙で上院議員に当選したばかりだが、「ウクライナ支援の中止」などを強硬に叫び、トランプ氏と重なる主張を党内でも最も忠実に展開する若手である。そればかりではない。製造業不振で沈滞する白人労働者階級の貧しい家庭出身ながらベンチャー投資家として、そしてベストセラー作家として身を立て、怖いもの知らずの発言を繰り返すなど、”若き時代のトランプ氏””ミニ・トランプ”を彷彿とさせるような人物である(もっとも、政治家になる前後ではトランプ氏に対して批判的であったとも伝えられるが)。
米国内はおろか、海外でも11月の大統領選挙情勢について”ほぼトラ”(トランプ勝利)ととらえらる中、トランプ氏が共和党の大統領候補指名をかちとることは想定内であったが、そのトランプ氏が副大統領候補にヴァンス氏を指名するらしいとの情報を得た英国政界(現労働党政権など)は驚愕した。ヴァンス氏がウクライナ戦争について英国などNATOの主要国がウクライナと共に主張している「ウクライナとロシアの国境を戦前に戻す」という目標について「空想的」と批判している他(4月、「ニューヨークタイムズ」掲載のエッセイ)、7月上旬に開かれた「保守政治活動会議(CPAC)」会合で「英国は世界初のイスラム主義核保有国になる」との趣旨の発言をしているからだ。
「ドナルド・トランプ前大統領が副大統領候補に選んだ上院議員が、労働党政権下のイギリスは核兵器を保有する初の『真のイスラム主義国』かもしれないと発言したことについて、イギリスのアンジェラ・レイナ―副首相は(7月)16日、イギリスはそのような国ではないと一蹴した」
「ヴァンス副大統領候補の発言は先週、首都ワシントンで開かれた国民保守主義の会議でのもの。…ヴァンス議員はこの会議での演説で、自分はイギリスを『叩いている』のだと語り、友人と『核兵器を保有する最初の真のイスラム主義国はどこか』について話し合ったと述べた。『イランかもしれないし、パキスタンは数に入るかもしれない。それから私たちは、実際のところ、労働党が政権を取ったイギリスだろうと話した』と冗談を飛ばした」
(参考)「ヴァンス氏が『イギリスはイスラム主義の核保有国』と発言 英副首相は一蹴」2024/7/17 BBC NEWS JAPAN(日本語版)
https://www.bbc.com/japanese/articles/c4ng347ln95o
ヴァンス氏や米保守政治活動家は英国やEU諸国の移民政策に批判的で、「イギリスはイスラム主義の核保有国になるかもしれない」との趣旨の発言は、「多様性」を誇る現労働党政権への強烈な揶揄といえるものだろう。だから、英国の反応はかなり早く、実は7月13日にトランプ氏にふりかかった暗殺未遂という災難(右耳軽傷で難を逃れる)への”お見舞い”の名目も盛って同15日の共和党大会にボリス・ジョンソン英元首相が駆けつけたのは、ヴァンス氏が副大統領候補となることで米国のウクライナ支援政策の極端な転換が早まることや、米英関係が悪化することを牽制するためであったようだ。
英紙「デイリー・テレグラフ」7月17日付記事「ジョンソン氏、トランプ前大統領にウクライナ支持を要請」には、次のようにある(以下、紙面英文記事から抄訳)。
「ボリス・ジョンソン氏はドナルド・トランプ氏がウクライナ戦争への米国の支援に強く反対する副大統領候補を選んだことを受けて、同氏にウクライナを見捨てないよう促した。…ジョンソン氏は月曜日(7月15日)、ミルウォーキーで行われた共和党全国大会に訪れてトランプ氏と1時間近く会談、戦争について議論した」
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