【長峯教授に聞く、宇宙物理学の世界❷】

【長峯教授インタビュー 第Ⅱ部】(全3回)

今回は、阪大理学研究科宇宙地球科学専攻の長峯教授の研究内容についてご紹介します。

星の構造形成やブラックホール、ダークマターに興味のある人はもちろん、物理学が全くわからない人でも読みやすい内容になっているので、安心してください!読めますよ!

第1部はこちら

ミステリー! 超巨大なブラックホール!


↑教授おすすめの本

―――教授の研究内容をもっと詳しく教えていただけますか?

 ブラックホールがどうやってできるかという話は最近急激に進んできた分野で、各銀河の中心に非常に大きなブラックホールが存在することが分かってきたんですよ。

 それは超巨大ブラックホールと呼ばれているやつで、太陽の質量の100万倍から10億倍くらい。そんなバカでかいものが、パッとできるわけないじゃないですか。だから、それがどのように形成されたのかが1つの研究テーマなんです。


 面白いことに、大きな銀河ほど大きなブラックホールを持っていることがわかっています。逆に、小さな銀河には小さなブラックホールしかなくて、そこに正の相関があるんです。

 なのでおそらく、銀河とブラックホールは何らかの関係性を持ちながら成長してきたんですよ。
 銀河はなぜか、自分の中心にいるブラックホールのことを知っているわけ。銀河にくらべてブラックホールは非常に小さいのに、です。

 
 その関係性を理解しようというのが現代宇宙論のテーマの1つです。それを突き詰めていくと、宇宙の初期の頃にどうやってその“種ブラックホール”ができたのかが1つの課題になっているわけですね。

 
 通常のブラックホールがどのようにできるのかというと、でかい星が超新星爆発っていうのを起こして、最後に小さいブラックホールを作るんですよ。
 
 それは5 solar massとか、10 solar massとか。つまり、大体太陽の5倍から10倍の質量を持つだろう、っていうのは星の進化の研究からわかっているんですね。
 だけど、最初にできるブラックホールは小さいので、小さいブラックホールをかき集めて成長しても、10億倍とかにはなかなかならないんですよ。時間が足りないので。

 「じゃあ、最初にもっとでかい”種ブラックホール”ができたんじゃない?」というアイデアがあって、そういうのをダイレクトコラプス(直接崩壊)シナリオって言います。

 例えば、星よりもっとでかい質量のガス、太陽の質量の10万倍とかの雲をグシャって潰して、ブラックホールができないか。ガス自体は宇宙にたくさんあるので、本当にこれが起こるのかが課題です。



ダークマターによる銀河形成はシミュレーションできている!

 
 そのためにはまずガスが集まらなくちゃいけないんだけど、ガスを集めるのはダークマターの役割なんです。
 宇宙にダークマターがあるから、まずダークマターのゆらぎが成長して、そのダークマターが作ったポテンシャルにガスが落ちて、ガスがどんどん集まってくるわけね。

 ガスはフワフワしているので、自分だけではなかなか集まってきてくれないんです。なので構造形成にはダークマターが重要で、ダークマターがなければ銀河はできないんです。
 ダークマターの重力があるからこそ、僕らはここにいるんです。

 

 宇宙のエネルギー密度、すなわちダークマターが20数%、バリオンが4%くらい、残りがダークエネルギー、っていう分配と、ばらばらに分布するダークマターを初期条件に入れてスパコンでシミュレーションしてあげれば、まずダークマターの塊ができて、そこにガスが落ちてくる(集まってくる)のがわかって、ダークマターによる構造形成っていう観点からはすごく良く理解できているんです。

 じゃあ、観測される銀河の数がシミュレーションと合うかどうか、っていうのは1ステップ上の質問です。

 つまり、例えば渦巻き銀河は何個できるか、楕円銀河は何個できるかとか、そういうのは細かい話になってくるので、そこまではまだちゃんと抑えられていないんだけども、銀河そのものができるだろう、っていうのはちゃんとわかってきています。

 
 そのためには、相互作用しない比較的重い粒子のダークマターが必要で、それはコールドダークマター(Cold Dark Matter; CDM)と呼ばれています。
 ダークマターにも色々な種類があるんですよ。例えば軽いダークマターの候補としては、ニュートリノとかがあります。
 宇宙の構造形成の観点では、相互作用しない重い粒子が適しているわけです。


ダークマターの検出は簡単ではない!

 天文の観測をすることによって、この宇宙に存在するダークマターの粒子的な性質、すなわちどういう性質の粒子であるべきかっていうのが分かります。

 だからこそ素粒子の実験屋の人たちは、ダークマターを直接検出しようと一生懸命やっているわけです。日本だったら、神岡鉱山の下にあるXMASS(東大の研究施設)とかで行われています。

 

 宇宙から地球に飛んでくるダークマターがあるはずで、もしダークマター粒子が飛んできてディテクターの中に入ってきたら、原子核と相互作用してちょっとだけ熱を落としたり、またはシンチレーションという荷電粒子が光を出す現象が起きたりします。
 そういう現象を観測することで、ダークマターの存在についてヒントを得ようとしています。

 だけどそれはノイズとの戦いで、なかなか検出できないんです。
 直接検出できるようになって、どんな性質かが分かれば、宇宙論がバーっと進歩するはずなんですよね。

 
 あと、真空の中のダークエネルギーというものがあるはずで、なんでそんなエネルギーがあるか、っていうのはまだわかっていないわけです。
 量子力学を勉強すると真空のエネルギーっていう概念は出てくるんだけど、ホントにそういう場が存在するのかっていうのはまだよくわかっていなくて、まだまだ謎は多いです。



――――現在の物理学の理論の中で、コンピュータのシミュレーションなどの結果やっぱり間違っていた、ということはあるんですか?

 もちろん色んなパラメーターでシミュレーションを走らせて、その中のひとつが実際の宇宙にはうまく適合しません、っていうことは示すことはできます。
 でもそれは別にそのモデルがよくないモデルというだけであって、理論そのものが間違っているというわけではありません。
 根本的に違うということころは探していかないといけなくて、でも今のところアインシュタインの理論とかが間違っているという証拠はありません。素粒子の理論も間違っているというのは今のところないわけです。

 新しい物理を何とか見つけたいのですが、そのためにダークマターやダークエネルギーを理解しようとしているんです。それが分かれば、今の物理理論に何が足りないのか分かると思うんです。


 だからそれをやっているんだけど、今の理論から大きく逸脱した観測というのはあんまりないんです。
 なので、「逆におかしいのでは」と思ってる人もいるくらいですね。

 ダークエネルギーもまだうまく理解できていないし、そこに何かヒントがあるんじゃないかと思っています。

(第Ⅲ部へ続く)


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