世界に広がる、新しい食材。「代替肉」について
世界的な人口増加による食料不足、特にタンパク質の不足が問題になっています。2050年には世界の人口が91億人に達すると言われており、タンパク質需要が急速に増え、世界的な供給不足になることが予測されています。
(引用:How_to_Feed_the_World_in_2050 JAより
http://www.fao.org/fileadmin/templates/wsfs/docs/expert_paper/How_to_Feed_the_World_in_2050.pdf)
現代では、安価に食肉や卵といったタンパク源を購入することができ、食生活に欠かせない食材になっています。もし食卓からお肉や魚、卵が消えるとしたら、どう思いますか?あまり想像ができないのではないでしょうか。
そんな現状を解決すべく、各国で「代替タンパク質」の普及が加速しており、大豆肉や昆虫食など肉に代わるプロダクトが注目を集めています。
この記事では、代替肉にスポットをあて、そもそも代替肉とは何か?なぜ普及が加速しているのか?今後の代替肉市場はどうなっていくのか?について解説しています。
代替肉とは?代替肉の種類やトレンドについて
代替肉は大きく2つの種類があります。
1つはお肉を模して植物に加工を施したものです。
中でも大豆由来の代替肉は製造している企業も多く、飲食店やスーパーで目にする機会が増えてきました。健康意識の高まりに加え、ヴィーガンでも食べられることから、代替肉の中でも特に普及率が高くなっています。
特にアメリカでは植物性代替肉の売れ行きが好調で、2020年3月下旬時点では、肉・乳製品・卵・魚を含めた植物性代替プロテイン製品は前年同期と比べ90%伸びています。※
※参考文献:田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀著(2020年)日経BP「フードテック革命」 Chapter3-③代替プロテインの拡大
もう1つは牛・豚などの細胞を採取し、培養してお肉を作る培養肉です。
弊社でも独自の培養技術であるCulNet Systemを用い、培養フォアグラをはじめ、レザーやコスメなど、培養技術を生かしたプロダクトの開発を進めています。
培養肉市場では、2020年12月にアメリカ発のベンチャー企業であるEat JUST社が、世界で初めてシンガポール食品庁(SFA)の認証を取得、培養した鶏肉の販売を開始したことで話題となりました。
培養肉は大量の家畜の飼育を必要とせず、数週間程度で肉の塊を培養することができるため、飼育効率が高い点に加え、牛を育てるために必要な飼料や水・土地が必要ないこと、牛が出す温室効果ガスも出ないことなど、環境保護の点からも注目を集めています。
世界的な代替肉普及の背景
代替肉の普及が加速している背景の1つ目としては、前述の通り、2050年には世界人口が91億人を超えるという人口爆発が挙げられます。
急激な人口増により、2011年時点で2億6,900万トンだった食肉需要量が2050年には4億6,000万トンになるとの試算されており、およそ1.7倍まで増えることが予想されます。
引用:三井物産戦略研究所「世界の食肉需要の行方-穀物市場へのインプリケーション-」レポートより https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/1220936_10674.html#:~:text=その試算結果を見る,をたどることになる。
これだけの食肉を畜産で供給するには、莫大な飼料・水・土地が必要です。
FAOは2050年までの食肉も含めた食料需要の増加に対し、土地・水・遺伝子を満たせるか?という問題について、天然資源の基盤は世界レベルで需要を満たすには十分であるとの見方を示しています。
しかし、それを実現するためには、すべての地域で大規模な改革と投資を必要とし、とても大きな課題があることが分かります。
(参考:FAO How_to_Feed_the_World_in_2050 JA http://www.fao.org/fileadmin/templates/wsfs/docs/expert_paper/How_to_Feed_the_World_in_2050.pdf)
2つ目は、環境負荷の点でも代替肉が注目されています。
FAOの報告書では、温室効果ガスの14%が畜産業由来である、としています。さらに畜産による食肉の生産量を増やすと、土地確保のために森林が伐採され、さらなる環境悪化に繋がります。飼育数が増えるとより多くの飼料も必要になるため、さらなる温室効果ガスの増加が懸念されます。
また、食肉の生産性という点でも、限界の兆しが見えています。1957年当時、鶏の孵化57日目の体重が905gだったのに対し、2005年時点では4,202gまで成長するほど品種改良が進められてきました。できるだけ早く・多くと考え高められてきた食肉の生産性を、これ以上向上させるのは現実的ではありません。
2019年にインポッシブルフーズが発表した「Impact Report」によれば、植物由来の代替肉を使用したインポッシブルバーガー2.0は一般的な食肉バーガーと比較すると、水の利用量は87%削減、土地の利用面積は96%削減、温室効果ガスの排出量は89%を達成した、との報告がありました。代替肉が普及することにより、環境保護へも多大な貢献が可能です。(Impact Report:https://impossiblefoods.com/impact-report-2019)
上記のような無理のある畜産では衛生面のリスクも高まります。これまでも豚コレラ・鳥インフルエンザなどの感染症がまん延してきました。
世界農業白書2009の中でも、「都市近郊の人口密度の高い区域への畜産施設の集中、および動物、人および病原体の集約的生産システムと従来型生産システム間の移動の組み合わせによって組織的なリスクが出現している。」(引用:FAO編集 JAICAF発行 世界農業白書2009 http://jaicaf.or.jp/fao/publication/shoseki_2010_5.pdf)と指摘されています。
動物への感染症のまん延は、人体へのリスクも懸念されますし、経済的な損失も大きくなります。
昨今では世界最大の毛皮生産国デンマークで、ミンクがコロナウィルスに感染し1,700万匹が殺処分されたことも記憶に新しいです。
代替肉の製造工程では、厳重に滅菌処理された生産環境で培養を行うため、衛生リスクなく生産が可能になります。
代替肉が普及している背景の4つ目は食文化の多様化が挙げられます。
健康志向・アニマルウェルフェア・クルエルティフリー・上述した畜産による環境破壊の面からヴィーガン・ベジタリアンを選ぶ人口が世界的に増加しています。
大和総研の「なぜ今、ヴィーガン(ベジタリアン)なのか~重要な示唆は価値観の変化による行動変化~」のレポートによれば、1998年~2018年の20年間でヴィーガン・ベジタリアンの年平均増加率はアメリカで3.9%、ヨーロッパでは2.6%と報告されています。
(参考:https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20210203_022067.pdf)
植物由来の代替肉であれば、ヴィーガン・ベジタリアンでも問題なく食すことができます。培養肉においては様々な考え方がありますが、培養肉を研究している多くの企業においては、細胞採取の際に動物を殺さないことを目指しており、アニマルウェルフェア・クルエルティフリーに則った商品が誕生するのにも、それほど時間は要さないと考えられます。
今後の代替肉市場の動きとインテグリカルチャーが目指す未来
AT Kearny「How will cultured meat and meat alternatives disrupt the agricultural and food industry?2019」によれば、2040年には食肉市場における代替肉の市場シェアは60%にまで成長すると予測しています。そうなれば代替肉は市場規模1兆ドルを超える巨大な市場となります。
また、The Global Alternative Food Awardsが発表している代替プロテイン参入企業のカオスマップによれば、植物性代替プロテイン領域では2018年時点で15社だったのに対し、19年1月には約100社、20年6月には約200社と急激な勢いで参入企業が増えていることがわかります。
(参考:[https://newprotein.org/](https://newprotein.org/))
大手の代替肉市場への動きも増えており、米食肉加工最大手のタイソンフーズはビヨンドミートに出資。スイスのネスレは2019年9月から米国で植物性の「Awesome Burger」を販売開始。ユニリーバはスタートアップの「The Vegetatrian Butcher」を買収し2019年12月から欧州のバーガーキングで植物性のワッパーの販売を開始しています。
今後の市場成長とともに、さらに参入企業が増え、私たちも植物性代替肉や培養肉を食べる機会が増えると予測されます。
インテグリカルチャーは独自の細胞培養技術であるCulNet Systemを用い、日々培養肉をはじめとする培養製品の研究開発を行っております。
アニマルウェルフェアやクルエルティフリーの観点、環境負荷の点からも培養肉は優れたソリューションですが解決すべき課題があることも事実です。
モサミートの創設者であるMark Post氏は、世界で初めて牛の肝細胞を使った培養肉ハンバーガーの製造に成功したことで話題になりましたが、1個あたりのコストは200gで約3,000万円と実用化にはほど遠いレベルです。
私たちのCulNet Systemでは、臓器同士が血管で繋がり、細胞を成長させるという体内に似た環境を構築することで、一般的な培養法に比べ大幅なコストダウンに成功しました。実用化の第一歩として2021年12月に培養フォアグラの上市(一部レストランでの提供開始)をすることを目標とし研究開発を進めています。
インテグリカルチャーが目指す未来は、大きく2つあります。
1つ目が新しい農業生産技術で、世界の食料問題を解決すること。
2つ目がどんな場所でも(宇宙空間でも)、誰でもが自由に、細胞培養技術を使えることです。
CulNet Systemで培養できるのは肉等の食品だけではなく、動物細胞由来のコスメ・レザーなど幅広い分野での活用を想定しており、持続可能な世界を実現すべくさらなる可能性を広げていきます。