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銀座無双、今日も優雅に無敗です 〜花見編「場違いな男」2〜
花見編第2話:ジョージ、芦名ユリを和ませる
桜の下、バーベキューグリルを囲んでジョージ、芦名ユリ、セシル、鹿島トオル、その他のメンバーたちが立っていた。
肉の焼ける香ばしい匂いとともに、軽い雑談が続く。
しかし、ユリはどこか硬い表情を崩せないでいた。
彼女は皿を手に持ちながら、周囲に合わせて笑うものの、視線は落ち着かず、ジョージの方に目を向けてはすぐに逸らしている。
その様子を見ていたジョージは、黙ってクーラーボックスを開けた。
中を覗き込み、眉をわずかにひそめる。
「……ふむ」
彼が取り出したのは、缶のレモンサワーだった。
ジョージはそれを一瞥し、口角を上げずに呟いた。
「――不本意だな」
ユリがその声に反応し、顔を上げた。
ジョージ、レモンサワーをくさしながら会話の糸口を作る
ジョージは缶を手に持ち、ラベルを眺めながら淡々と言った。
「――私は、できる限り”飲み物”にこだわるようにしているんだが……
この選択肢しかないとなると、話は別だな」
ユリは、思わず小さく笑った。
「レモンサワー、そんなに嫌いなんですか?」
ジョージは缶を軽く持ち上げた。
「嫌いというより――“諦めの味”に近いな」
「諦め……?」
「そうだ。“何も考えたくない時に手に取る”という意味で、レモンサワーは便利だ。
だが、そこに”美意識”があるとは言い難い」
その言葉に、ユリが口元を抑えながら笑い出す。
「ふふっ……そういう風に言うんですね」
ジョージはわざと真面目な表情を作りながら、缶をユリに差し出した。
「――どうだ、飲むか? 少しは”諦めの味”を共有してみるのも、悪くないかもしれない」
ユリは缶を受け取り、笑顔を見せた。
「……それなら、一緒に諦めます」
ジョージは肩をすくめ、軽くお辞儀をする。
「――乾杯しよう。諦めの美学に」
ユリはくすくす笑いながら、缶を開け、一口飲んだ。
セシルの無粋な質問
そのやり取りを見ていたセシルが、口を挟んできた。
「ジョージさん――女性には本当に優しいんですね?」
ジョージは、缶をテーブルに置き、セシルに冷静な視線を向けた。
「そうか?」
「ええ、さっきの芦名さんへの態度――まるで別人じゃないですか。
もしかして、“モテたい”とか、そういう気持ちがあるんですか?」
その瞬間、ジョージの表情が冷たく引き締まった。
「……セシル――」
ジョージの声には、低く、冷ややかな響きがあった。
「その質問――実に、無粋だな」
「えっ?」
ジョージはため息をつき、少し視線を空に向ける。
「君は、“女性に優しくする理由”を”モテたい”という発想に結びつけた。
つまり、女性に対する態度を”損得”でしか考えていない、ということだ」
「そ、そんなつもりじゃ――」
ジョージは手を軽く振って遮った。
「だが、そうだろう?
君の頭の中では、『女性に優しくする=何かを得ようとしている』という構図が、自然と出来上がっている。
その考え方は――“礼儀”を理解していない証拠だ」
セシルは口を開こうとするが、ジョージの目がそれを許さない。
「――聞いておけ、セシル。
“紳士”とは、何かを得るために女性に優しくするのではない。“女性に対して礼儀を持って接する”――ただ、それだけだ」
「礼儀……?」
「そうだ。“礼儀”は、人間の本質を映し出すものだ。
誰も見ていない場所でも、誰にも評価されなくても――“本物の紳士”は、常に礼儀を持って行動する。
それは、相手がどんな人間であろうと変わらない」
セシルは黙り込み、ジョージの言葉を反芻する。
ジョージは再び桜の木を見上げた。
「そして――本当に紳士的な行動を取る者は、自分の行いを”優しさ”だとは思わない。
ただ、“当然のこと”をしているに過ぎない」
セシルは戸惑いながら、ジョージを見つめた。
「……でも、それって――」
ジョージはゆっくりと立ち上がり、スーツの裾を整えた。
「――覚えておけ、セシル。“紳士”とは、『他人のために自分を整えられる人間』のことだ」