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銀座無双、今日も優雅に無敗です 〜花見編「場違いな男」3〜

花見編第3話:ジョージの”仕事論”

ジョージへの興味と探り

バーベキューも佳境に入り、桜の下でゆったりとした時間が流れる。
ジョージは煙を避けるように離れた席に座り、手元のグラスをくるくると回していた。

「ジョージさんって、普段は何してるんですか?」
誰かがふいに尋ねた。

セシルが慌てて割って入る。
「白洲ジョージさんは、ファッション業界の……えーと、何でしたっけ?」

ジョージが冷たくセシルを一瞥する。
「“何でしたっけ”ではないだろう。言い淀むくらいなら、黙っていろ」

「す、すみません!」

そこで、鹿島トオルがニヤリと笑って話に加わった。
「ファッション業界にいるのに、今日みたいにスーツ姿で登場するあたり、筋金入りですね」

ジョージは肩をすくめた。
「私の肩書きなら、“ファッションプロデューサー”ということになるが、実情は違う」

「ほう、詳しく聞かせてください」
鹿島が興味深そうに身を乗り出す。

ジョージの”仕事論”

ジョージはグラスを一口飲んでから、静かに話し始めた。

「私は白洲家の人間だ。それゆえ、親が作った道を強制的に歩まされている。
ファッション業界というのも、父が私に与えた居場所の一つだ」

「強制的に、ですか?」
鹿島が眉をひそめた。

「無論だ。だが、私はその強制を”美学”に変えた」
ジョージはサングラスを外し、桜の花びらが舞う空を見上げた。

「出社するのは、月に一度程度。それも、遅刻して、ほとんどの時間をソファで寝て過ごす。
上司が何かを言ってきたことは、一度もない」

「うわぁ……」
芦名ユリが目を丸くした。

「ただ、怠惰に見えるその行動も計算だよ。
私が”無駄”な時間を過ごしていると、皆は思うだろう。だが、怠惰こそ最高の贅沢であり、美学だ。
無意味な努力を避け、必要な瞬間にだけ動く――これが、私の美意識だ」

アイリのボヤき

その説明を聞き終えたアイリが、呆れたようにため息をついた。

「お兄ちゃん、それ、美学って言わない。ただのサボり」

「違うな、アイリ。私がサボっているのではない。“選んでいる”のだ」
ジョージはゆったりと話を続ける。

「無駄な会議に出るよりも、ソファで寝ている方がよほど有益だ。
世間では、働いていない人間を怠け者だと見なすが――違う。“働く”こと自体が目的化した時点で、人は愚かになる。
私は必要な時だけ動く。そして、その瞬間に誰よりも結果を出す」

「……」
一同は圧倒され、言葉を失う。

セシルの素っ頓狂な合いの手

「じゃあ、ジョージさんが突然動き出すと、何か奇跡が起きるんですか?」
セシルがニヤニヤしながら口を挟む。

ジョージは皮肉たっぷりに言い放った。
「奇跡など起きないさ。ただ、君たちのような凡人には理解できない領域の話をしているだけだ」

「そ、それって、僕をバカにしてます?」
「しているよ」

「ですよねー! でも、ちょっと納得いかないなぁ。僕だって、頑張れば……」
「頑張らなくていい。君はそのままでいいんだ。期待していないから」

セシルは肩をすくめ、笑って見せた。
「さすがジョージさん、辛辣ですね」

鹿島の鋭い質問

鹿島が腕を組み、冷静にジョージを見つめた。

「でも、ジョージさん。必要な時にだけ動くと言っても、それを見極めるのは難しいんじゃないですか?」

ジョージは微笑を浮かべた。
「難しいかもしれないが、私は”その瞬間”を見逃さない。祖父譲りの洞察力というやつだ」

鹿島は頷きながら、静かに言った。
「その”洞察”を誇るなら、もっと人を動かしてみるのも面白いですよ。怠ける美学もいいですが、社会に影響を与えるのも、一つの楽しみ方かもしれない」

ジョージは一瞬黙り、鹿島を見つめた。
そして、ゆっくりと口を開く。

「興味深い提案だ。だが――私は、影響力を持つこと自体を”無粋”だと考えている。
人の上に立つよりも、一人で優雅に、無敗でいる方が性に合っている」

鹿島は静かに笑った。
「なるほど、“銀座無双”らしい考え方ですね」

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