銀座無双、今日も優雅に無敗です 〜花見編「場違いな男」1〜
花見編第1話:セシル主催の花見バーベキュー
ジョージ、場違いの登場
駒場野公園の桜が満開の午後。
桜の下に並べられたバーベキューセット。煙が立ち、肉が焼ける匂いが漂う中、突如、砂利道の向こうから場違いな存在が現れた。
白洲ジョージ。
スーツ、サングラス、そして明らかに不機嫌そうな表情。
「……なんでスーツなんですか!」
最初に声を上げたのは、主催者のセシル・アンダーソンだった。
ジョージはため息を一つつき、袖口のホコリを払いながら一言。
「もう二度と、君の気まぐれには付き合わないと決めたよ」
ジョージの止まらないボヤき
「まったく、なんだこれは?」
ジョージは周囲を見回しながら不満をぶちまけ始める。
「桜の花びらが舞う中で、肉を焼いて、ビールを飲む? 日本の伝統行事だと聞いてはいたが、これはもう暴挙だ。
火の管理もできていない。肉は焦げ、野菜は炭化している。これを『風情がある』だなんて笑わせる」
「ジョージさん、そんなに文句言わなくてもいいじゃないですか」
セシルが苦笑するが、ジョージは止まらない。
「そもそもだ、セシル。君は考えたことがあるのか? 桜は儚さの象徴だろう?
だというのに、その下で無計画に肉を焼き、酒に酔い、騒ぐ。これが日本人の美学だとしたら、私は失望するね」
「……そこまで言うか」
セシルが思わず笑いを漏らした時、ジョージは鋭い視線を向けた。
「君の企画力の問題だよ、セシル。
この手のイベントをやるなら、炭の選び方、火の管理、肉の産地、さらには飲み物のペアリングまで計算しておくべきだろう?
そうだ、せめてドンペリくらい用意していたら、私も少しは機嫌が良くなったかもしれない」
セシルの友人たちの反応
その場にいたセシルの同僚たちは、みな唖然としている。
その中でも、細身の女性――芦名ユリは、恐る恐るジョージを見た。
「……あの、あの人って、誰?」
セシルに小声で尋ねる。
「白洲ジョージさん。僕の……知り合い、というか……」
「怖い。なんか、すごく怖い……」
ユリはジョージの物腰に圧倒され、目をそらしてしまう。
一方で、アイリの友人である強面の男が、一歩前に出た。
「ははは、面白い人じゃないか」
鹿島トオル――身長190cm、体格もがっしりしている。外資系投資銀行のエリートで、普段は高級スーツを着こなす男だ。
「ジョージさん、せっかくの花見なんだから、そんなに突っかからないでくださいよ」
「君は?」
「鹿島トオル。メリル・リバティ証券のトレーダーです」
ジョージは目を細めた。
「なるほど。……つまり、金融業界の血も涙もない人間か」
「おや、怖いなぁ」
鹿島はニヤリと笑った。「でも、ジョージさんも同類じゃないですか?」
「私に血も涙もない? とんでもない。私には、美学がある」
「なるほど。その美学のために、わざわざスーツ姿でバーベキューに?」
「もちろんだとも。だが、その美学に反したこの場の無計画さに、私は吐き気を催している」
鹿島は笑いながら、手に持ったグラスを掲げた。
「じゃあ、ジョージさんの美学を聞かせてもらいましょうか――桜を見ながらの酒の味について、どう思う?」
「……悪くない」
ジョージは淡々と言った。「ただし、安酒は論外だ」
アイリとの会話
一段落して、アイリがジョージの隣に座る。
「本当にお兄ちゃんって、こういう場に向いてないよね」
「その通りだ。だが、君たちがこうして無駄な時間を過ごしている間にも、私はいくつかの仕事を片付けられたはずだ」
「嘘つけ。本当はちょっと楽しいんでしょ?」
「……まあ、少しはね」
「ほら、素直じゃん」