不都合はだいたい突然やってくる。
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がん患者で64歳の男性は、薬の副作用で体が痛いらしく、夜中に「痛いよ」とすすり泣いていた。あんなに悲しい男の声を聞いたことがない。
ラジオが音漏れするほどの音量で流れている。闘病生活に蓋をするラジオの聞き方だった。
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もの腰柔らかで素敵な声の男性62歳は多分職場でも好かれてそうな人だと思った。声だけで、職場のいい上司、いいお父さん、そんな彼の姿が簡単に想像できるような声だった。ある日、手術を終えてからほとんど声を発しなくなり、代わりに聞こえてくる