10代が辻愛沙子さんと社会課題を考える!イベントレポート
Inspire Highでは、2023年1月20日にオンラインイベント「学校横断!インスパイア部・Inspire Highガイドと話そう!」を開催しました。
「学校横断インスパイア部」とは、学校の垣根を越えて同世代とつながり、自分の興味関心を広げていく10代のためのオンライン活動です。
1月はInspire Highのガイドであり、クリエイティブ・ディレクターの辻愛沙子さんをお迎えしました。イベントでは、辻さんのクリエイティブな活動や社会問題への取り組みなどについてお話をいただき、10代と辻さんが直接対話。さらに「ジェンダー平等」をテーマにしたディスカッションも行いました。
集まったのは、全国から参加した10代メンバー。日頃からInspire Highのメンバーコミュニティで活動しているメンバーも多く、学校や学年を越えて積極的に意見を交わし合いました。
■まずは10代からの発表
Inspire Highの動画では、辻愛沙子さんから出題された「問い」に取り組むことができます。実際にその問いに取り組んだメンバーの2人が、そのときのアウトプットを紹介してくれました。
辻さんがセッションで出題したアウトプットテーマは、「自分の好きなモノ・コトを3つ見つけてその共通項にキャッチコピーをつける」というもの。
メンバーのKokoさんは、「自分はアートや自己表現が人生のテーマで、その点が辻さんと似ている。自分にとってのアートとは、自分の考え方や感情を表現するライフスタイル」と、発表。「スニーカー」「音楽」「人と関わること」を好きなことに挙げ、『自己表現』というキャッチコピーをつけました。
mikuさんは、「好きなものを、音楽と映画、アニメと3つあげて、キャッチコピーを『わたしに価値観を教えてくれるツール』にしました」と、当時のエピソードを伝えてくれました。
■辻愛沙子さんによるトーク
続いて、辻さんからのトークがスタート。
現在、広告やメディアを手掛けるarcaの代表、クリエイティブディレクター、アクティビストという3つの顔をもつ辻さんは、自身のエピソードや手掛けた仕事を紹介しながら、参加者に向けて、勇気を持てるメッセージや、大切な気付きを話してくれました。
「10代で自分が何を感じているか、何が好きなのか、怒りを感じるのかといった自問自答が今の自分をつくった。一人の時間や、自分の中の偏愛や好きなものを深掘りし、大事にしてほしい」
「言葉の力は強いので、自分の持っているステレオタイプや偏見が実は自分の可能性や強さを抑圧してしまうこともある。自分自身の力を大切にすること」
■10代からの質問タイム
辻さんのお話をうかがった後は、質問タイムです。全員が辻さんへの質問を考え、答えていただきました。
Q.気分が落ち込んでいる時、どうやって立ち直りますか?
「難しいし、無理だと思うこと、やる気が起きないことも沢山あります。自分に期待しすぎるとつらくなるので、無理にやらずに8割ぐらいでやることも大事。自分を俯瞰して見ることができると、変わっていくこともあるはず。ずっとそういう状態というわけではないと思うことが大切です。
また、物理的に五感を刺激したり、散歩で太陽にあたったりすることも、気分の切り替えには効果があると思いますよ。」
Q.若者に社会問題を意識してもらうには、どのように発信すればよいですか?
「とても難しいですね。正解はないので、むしろデジタルネイティブな皆さんに教えてほしい。自分が使っているツールや当たり前にやっているコミュニケーションなど、大人が知らない方法がたくさんあると思う。
これまで色々な発信方法を試してみて実感したことは、一見、地味で地道に見えるものが実はもっとも効果があるということでした。自分にとってできる“一歩”を大事にして、身近なところから課題のタネを伝えていくのがいいと思います。」
Q.若い世代にもっとも注目してもらいたい社会問題はありますか?。
「3つあります。ひとつは最近話題になった路上生活者について。自分とは違う人だと線引きしがちだけれど、社会の構造として捉えて目を向けてほしい。
2つめは『グローバルヘルス』という、水やトイレといった衛生問題からコロナまで、いわば地球規模の医療問題。
3つめは『SRHR』。『セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』の略で、ヘルスケアと性に関するもの全般だが、日本はとても遅れている領域なので、若い世代に声をあげてほしいと思っています。」
Q.「好き」と感じるものが本当に好きなのか、意味があるのかを考えてしまうことがあります。好きを仕事にしていて悩んだことはありますか?
「私も同じような悩みを何度も経験してきました。優先順位つけるのが苦手なうえ、やりたいことが多すぎてわからなくなってくることもあります。
そんな時は、集中と選択をしなければいけないものを絞るためにも、『何でしたいのか』『誰に届けたいのか』を自分に問うようにしています。
一方で、『好き』は変わっていくものです。価値観も好きなものもキャリアも都度自分に問い直し、柔軟に変えていい。結局は自分の感情にふれるものが、自分のコアになることが多いと思います。」
Q.自分が手掛けたもので、今までいちばん好きな作品はありますか?
「毎回、愛せるものづくりをしていて、全部好きです。つくるごとに技術や気持ちを会得していく一方で、どれだけやっても『もっとできたな』とも感じており、毎回満足と課題がありますね。
その中でも、自社のメディアである『Ladyknows』は始めて良かったもののひとつ。内発的動機でものをつくることはとても大事だと思います。
また、男女問わずぜひ見てほしいのは、Abema TVの性教育をテーマにしたドラマ『17.3 about a sex』。きっと勉強になるし、共感するところも多いと思います。」
Q.デザインの勉強で「自分を消せ」と言われるが、どうバランスをとればいいでしょうか?
「クライアントや、届ける社会、使う人の目線に立つことはデザインの必須事項であり、ある意味真理だと思います。けれど、人がつくっているものであれば、どこかに自分が入っていて、つくった意味があるので、自分を消す必要はないと思いますよ。
ただ、トレーニングとして、『社会にとって、ベストなデザインは何か』を自分が主語ではないところで考えていくような体幹づくりのトレーニングは必要です。その先に、自分らしさを開花できる時が必ず来ると思います。」
Q.社会課題の解決に取り組むとしても、一度仕事として始めると、視野がせまくなったり 新たな課題に気付けなかったりなど、当事者性がなくなってしまいそうで怖いと感じます。辻さんは様々な課題に対する思想が注目されているが、意識されていることはありますか?
「鋭くて、とても良い問いですね。この感覚をもっているならば、あなたはきっと大丈夫です(笑)。何のためにその課題に取り組むのかを見失わないことはすごく大事。
意識することは、フェーズとその人の状態、そして向き合う課題によって異なってきます。あくまで、私の場合は『課題を知ってもらう』、あるいは『その先にある未来にちょっとでもよい変化を起こす』ことを目的にしています。
『人はいつからでも、気付けるし、学べるし、変われる』という信条を忘れずに、時々立ち返りたいと思っています。データだけでわかった気にならず、できるかぎり現場に行って、当事者と話すことを心掛けています。」
■ディスカッションタイム:学校でのジェンダーの問題から解決策までを10代が考える
辻さんからそれぞれ回答をもらったメンバーは、次に数人でグループを組み、「学校の中で解決したいジェンダーの問題は何か」というテーマでディスカッションを行いました。
「正解は特にないので、どんな意見にも耳を傾けてみて」という言葉がけもあり、初対面のメンバー同士でも積極的に意見を交わす様子が見られました。
辻さんから、「改善というゴールは大きいので、その手前の『どんなアクションをしてみるとよいか』といった問いを話し合ってもらえるとよい」というアドバイスが送られました。
グループから出された問題点としては、「先生側が、男女によって怒り方を変えている」「女子のスラックス制服はあるのに、男子のスカートはない」といった、リアルタイムで学校生活を送る10代ならでの意見が出ました。
解決策としては、「先生が注意しやすいように、匿名で生徒を注意する」といったユニークなものや、「歴史的背景から、学校の制服制度を変えていく」という視点を変えたアイデアのほか、「違うバックグラウンドの人を異物化するのではなく、排斥せず向き合ってみることができれば、素敵な環境になる」と対話の大切さを考えた意見も発表されました。
また、「『おかしい』と感じた際には、先生にすぐ指摘してみる」というアクションを考えたグループでは、ディスカッションに参加した辻さんから「いきなり指摘する前に、一度『なぜですか』と聞いてみるのもいいのでは」というアイデアも出されました。
こうして2時間にわたるイベントは終了。
最後に、辻さんは「みなさんのお話をうかがって、今日ここに集まっている方々は希望しかなく、何の心配もいらないと感じた。自信をもって、楽しく人生を謳歌してください。一緒に頑張りましょう」と話し、参加したメンバーにエールを贈りました。
Inspire Highでは、今後も10代にインスピレーションを届けるイベントを開催していきますので、ぜひお楽しみにしてください!