[外国企業決算を読む(1)] ユニリーバ
会社概要
イギリス・ロンドンに本社を置く、大手日用品メーカー。
日本で買える製品だと、シャンプーのDove、台所用洗剤のJif、味の素がライセンス生産しているスープのKnorr、紅茶やハーブティーのティーバックLiptonなどが有名。もっとも紅茶事業は2022年に売却しているので、Liptonは今や別の会社の製品(もっとも日本の紅茶事業は売却したが、ドル箱であるインドやインドネシアの紅茶事業は手放していない)。
本拠地はイギリス、オランダだが世界全体で事業展開しており、ヨーロッパはもちろん、米国、中国、インドなど世界の主要な国や地域で強いブランド力を持つ。かつてオランダの植民地だったインドネシアなど新興国でも強い。
扱う製品は、
Beauty & Wellbeing(ヘアケア、スキンケア、化粧品類)
Personal Care(消臭剤、シャンプー、石鹸、歯磨きなど)
Home Care(洗濯用洗剤、柔軟剤、衛生用品など)
Nutrition(ドレッシング、機能性栄養食品、スナック菓子、代替肉、お茶など)
Ice Cream
と多岐に渡る。
2022年の Annual Report によると、2022年の年間売上高は601億ユーロ。2022年末の為替レート1€=140円で円換算すると84,140億円(8.414兆円)。部門別の内訳をみると、Ice Creamが約80億ユーロほどで、それ以外の4部門がそれぞれ120~140億ユーロほどを売り上げるという、バランスのとれた構成になっている。
詳細は、下に引用してきた Annual Report の1ページを見てください。「Turnover」と書いてあるのが売上です。
日本企業にあてはめるなら
同じ種類の商品を生産している会社であれば、たとえば
花王(洗剤、石鹸)
キユーピー(マヨネーズ)
味の素(カップスープ)
アサヒ飲料(清涼飲料水、紅茶)
明治(アイスクリーム)
があります。が、企業規模には大人と子供以上の差が😅。花王、キユーピー、味の素、アサヒ飲料を傘下に持つアサヒグループホールディングス、明治を傘下に持つ明治ホールディングスの直近の売上高はそれぞれ15,510億円(22年12月)、4,303億円(22年11月)、13,591億円(23年3月)、25,111億円(22年12月)、10,621億円(23年3月)なので、全部合計しても7兆円でユニリーバの売上高には届きません。ユニリーバがどれだけ大きいかが分かります。
財務情報
ユニリーバの決算情報は以下のWebページで確認することができます。一般にはIR情報、投資家情報、Investor Relations などと言われているページです。
URL : https://www.unilever.com/investors/
上場企業なので3カ月ごとに決算情報が追加されていきます。この記事を執筆しているのは2023年8月14日(月)なので、執筆時点で最新の決算は2023年上半期(1~6月)の決算。
筆者流の決算の読み方ーユニリーバの場合ー
だいたいどの会社もIRページのいちばん最初など目立つところに最新の決算情報を載せているので、これを探すのは割と簡単です。ユニリーバでも例にもれず「H1 2023 Results」がいちばん上にあります。ただ、これは英語のプレゼンテーション動画。スライドつきとは言え英語での説明についていくのは日本人にはハードルが高いので、その少し下にある英語の資料を自分のペースで読む方がいいでしょう。
その資料というのが、Key links の下にある3つのPDFです。
H1 2023 Full Announcement
H1 2023 Highlights
H1 2023 Presentation
H1 2023 Presentation が動画でも使われているスライド。これを見るのがいちばんわかりやすいと思います。というのも、H1 2023 Full Announcement とH1 2023 Highlights は英語のドキュメントなので(文章を読まないといけません)。ただ、Presentation でしれっと使われている略語の説明が Full Announcement に書いてあったりするので、一度は Full Announcement に目を通すことをオススメします。一度目を通しておけば、だいたい毎回書いてあることは同じなので(もちろん決算の結果 ― つまり数字 ― は毎回違うけど)、次の決算発表以降は、まずPresentation を見て、もし特に詳しく確認したいことがあれば Full Announcement で該当する項目だけ読む、というふうに見ていくのが効率的でしょう。
ちなみに、「H1 2023 Highlights」は、「H1 2023 Full Announcement」
の最初の1ページを抜粋しただけの資料(Full Announcement の方は27ページもあります!)。「H1 2023 Full Announcement」の最初の1ページには、
決算概要
売上や利益の数字など。売上は部門別の内訳あり。
ハイライト
ユニリーバが特に伝えたいことや大きなニュースなどの箇条書き
CEOのコメント
「今年もよく頑張った」的な自画自賛が多い。もっとも欧米の決算リリースなんてだいたいそんなもん。
が書いてあるので、ホントに最低限のことだけわかればいいという場合には、H1 2023 Highlights だけ目を通すというのもありです。こっちの方が1ページにぎゅっとまとまっているから、Presentation よりもいいと考え方もあるかもしれません。私のスタイルではないけれど。私のスタイル(オススメ)は、まずはPresentation資料でざっくり状況を把握して、気になることがあれば Full Announcement の該当箇所をピンポイントでチェックする、です。
知っておきたいキーワード
なじみのある日用品を製造している会社なので、事業内容は想像しやすく、事業や製品に関する英単語もそれほど難しくないと思います。Oral Care とか Hair care とか聞けば、あ、歯磨きね、シャンプーね、と。
あとは一般的な会計用語(EPSとか)を知っていれば、だいたい事足りますが、たまにユニリーバの決算でしか見ない単語が出てくるので、それも含めて、これだけ知っていればだいたい困らないと(私が)思う単語の一覧を以下にまとめておきます。
(一般的な)会計用語
Turnover : 売上高
イギリス英語。米国では Revenue が一般的。
Gross Margin : 粗利益率
Operating Margin : 営業利益率
Earnings per share : 1株当たり利益
BMI : Business Model Innovation
Capex ( Capital Expenditure ) : 資本的支出
要するに設備投資や設備の維持更新(価値向上)のための支出
R&D ( Research & Development ) : 研究開発費
ユニリーバの決算固有の会計用語
USG : Underlying Sales Growth
ユニリーバのような大きな会社はわりと頻繁に事業の売却や買収を行うのでその影響で売上高がぴょこんとハネ上がったり、逆にガクンと下がったりすることがある。そういう特殊要因を除いた売上高の成長のこと。会社が持っている本来の実力に基づいた売上高の成長と言ってもいい。Underlying → Under + lying → 「底流に、在る」。と捉えるとわかりやすいかも。
UPG : Underlying Price Growth
Underlying Sales Growth のうち、価格改定(値上げ)が寄与している分。
UVG : Underlying Volume Growth
Underlying Sales Growth のうち、販売数量の変化が寄与している分。UVGが伸びることでUSGが伸びている状態が、会社にとってもユニリーバ製品を買う消費者にとっても、ハッピーな状態でしょう。
UOM : Underlying Operating Margin
日本語では事業利益率、というのがいちばん近そう。非継続事業や、事業売却・事業買収などの一時要因の影響を除いて計算した営業利益率。Underlying Sales Growth の「Underlying」と同様、会社が持っている本来の実力を示す。
billion+ Euro brand
ユニリーバの製品の中で、年間売上高が10億ユーロ以上のブランド。ユニリーバ全体の売上の55%を占める主力商品で、ユニリーバはこれの売上を伸ばすことで会社を成長させようとしている。
事業や製品に関わる用語
Deodrant : 消臭芳香剤、消臭効果のある化粧品
Higiene : 衛生
Nutrition : 栄養
Prestige : 品格のある
Wellbeing : 快適で幸福な状態
具体例
以上、ユニリーバの決算を読むのに必要な基礎知識をまとめましたので、直近の決算を読んでみましょう。別の記事に用意しています。
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