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[日本企業調査レポート(2)] 三菱地所

に続く、日本企業調査レポートの2本目。

2社目に選んだのは、三菱地所。

調査レポート(1)のSHOEIは高い利益率に着目しましたが、2社目は所有する破格の資産に着目。優良資産持ち(利益を生み出す優良な土地持ち)です。

通称、丸の内の大家さん
東京駅の目の前、東京駅と皇居の間にあるオフィス街や、有楽町にある高級店が並ぶお洒落な街など、日本の、東京の中心にある街の多くの土地を所有し、ビルの賃貸料で安定した利益を得ている会社。

ロンドン、パリなど海外の主要都市にも物件を所有し賃貸収入を得ていますが、主力はやっぱり丸の内。国内のビル賃貸事業が売上の半分以上、営業利益の3分の2以上を占めています。

三菱財閥2代目の岩崎彌之助が、明治政府の丸の内陸軍用地11万坪の売却に応じて手にした、当時はただっぴろい野原、今は日本屈指の高級オフィス街。
土地やビルの評価額、莫大な賃貸収入を見て、「先祖伝来の土地持ち、金持ちにはどうやっても勝てないわあ😫、超うらやましい!」と思っています。


Financial Results

部門別売上高

売上の半分以上を占めているのが、丸の内、有楽町などに所有する自社物件(オフィスビルなど)の賃貸収入です。

2023年度は会社全体で1兆5,047億円の収益を得ています。

2023年度の部門別売上高


部門別営業利益

営業利益に至っては、その3分の2以上を丸の内、有楽町などに所有する自社物件で稼いでいます。

海外事業も多くの利益を稼ぎ出しています。ロンドン、パリ、バルセロナ(スペイン)、ストックホルム(スウェーデン)など世界の名だたる都市に所有する賃貸物件からの収益があるためです。

売上高でビル賃貸に次ぐ2番手、海外事業の倍以上の規模のあるマンション、住宅販売は、利益率は低めです。投資マネジメント部門、その他部門は営業赤字のためグラフには出ていません。

2023年度は会社全体で2,786億円の営業利益を稼いでいます。

2023年度の部門別営業利益


売上高と各利益率の推移

リーマンショックの起こる前、2007年度(2006年4月)からの売上高、各種利益率の推移は下のグラフのとおりです。

リーマンショックの後利益率は停滞したものの、それでも経常利益10%以上を維持。アベノミクス(大規模金融緩和)が始動した2013年3月期を底に利益率は改善傾向、コロナショックで売上は一時的に落ち込んだものの、利益率は上昇傾向にありました。

直近、2024年3月期は少し利益率落ちていますけど。

左縦軸の単位は100万円
売上高(棒グラフ)は左目盛、各種利益率(折れ線グラフ)は右目盛


バランスシートの推移

同期間のバランスシートの推移がこちら。

黄緑色の折れ線で示した自己資本比率は35%前後を維持。
赤色の折れ線で示した有利子負債/純資産は120%前後を維持。
明言されていませんが、おそらくこれが三菱地所の財務規律です。

純資産の伸びに合わせて総資産も有利子負債も増えています。
賃貸不動産事業というのは、基本的に資産規模に比例して収益が大きくなるので、資産を徐々に増やしていくというのは理にかなった戦略です。

左縦軸の単位は100万円
総資産、純資産、有利子負債(棒グラフ)は左目盛
折れ線グラフは右目盛


オレンジ色の折れ線は運転資本/総資産。運転資本は企業経営に必要な手元資金なので、この数値が低いほど手元にお金を残しておく必要がない(多くの資金を投資に回せる)ことを意味します。
オレンジ色の折れ線は、グラフの目盛が大き過ぎて見えにくいので、右目盛りの最大値を小さく調整して同じグラフを再掲します。

アベノミクスが始まって以降、10%付近から5%付近に明確に急低下しています。景気が良くなって、資産や資金の回転が速くなったのでしょう。

左縦軸の単位は100万円
総資産、純資産、有利子負債(棒グラフ)は左目盛
折れ線グラフは右目盛


キャッシュフロー

同期間のキャッシュフローの推移は下のグラフのとおりです。

リーマンショックの頃を除き、安定的に営業キャッシュフローのプラスを維持しています。一般に不動産事業というのは投資額も大きく投資の回収にも時間がかかるので、営業キャッシュフローは毎年プラスになるとは限らないのですが、三菱地所は優良物件からの賃貸収入という安定したキャッシュ創出源を持つため、非常に安定したキャッシュフローとなっています。

左縦軸の単位は100万円


従業員1人あたりの付加価値

粗利益を従業員数で割った1人当たり粗利益、つまり社員1人が生み出した付加価値をグラフ化したのが下の棒グラフです。

1人当たり年間2,500万円~3,700万円。
これは不動産大手5社の中でも最高水準です。そりゃ高い給料払えるわという金額。

棒グラフの目盛は左軸
折れ線グラフの目盛は右軸(単位は人数)


1株当たり情報

1株純利益(EPS)、1株純資産(BPS)など、今の株価が妥当かを判断する時には1株あたりに換算して評価します。

下のグラフは、純利益、純資産に加えて、保有する賃貸不動産の含み益と有利子負債、営業キャッシュフローをグラフ化したものです。

棒グラフの目盛は左軸、折れ線グラフの目盛は右軸です。左の目盛は右の目盛の10倍です。

緑の折れ線グラフが示すEPSは、アベノミクスが始動した時期からほぼ右肩上がりに増えていて、24年3月期には125円くらいになっています。青の折れ線グラフが示す営業キャッシュフローは波がありますがコロナ明け後は200円前後。

着目すべきは2024年3月末時点で不動産含み益が3,500円以上あること。
有利子負債が2,300円弱、純資産が1,920円なので、今すぐ会社を解散して不動産を全部売って有利子負債を返すと、1株あたり

 3,500 - 2,300+1,920 = 3,120円

が残るということ。直近の株価は2,418.5円(2024/08/23)。今すぐ会社を解散して株主にお金を返した方が株主にとっては利益がある、という状態は、いわばPBR1倍割れと同じ状況。その観点で見ると割安です。

棒グラフは左目盛、折れ線グラフは右目盛


土地持ちだけど、金持ちじゃない?

財務を見ると、優良な土地とそこに立てたビルを多数保有し、安定的な利益を上げている超リッチな会社。

ですがその優良資産の割に利益は見劣りします。
ここ数年はコロナの影響を除けば1株純利益も100円を超えてきていますが、10年前は50円前後でした。1株利益が50円・・・株価が1,000円を超えたらPERが20倍を超えてしまう程度の利益しか出せていませんでした。

確かに資産持ちで資産の含み益は莫大ですが、売ってしまえばそれっきり、二度と収益をもたらしません。その意味では賃貸不動産事業者のバランスシートに乗っている莫大な不動産含み益など絵に描いた餅でしかないとも言えます。つまり、すごくいい土地たくさん持ってる資産家だけど、お金がない😫。10年くらい前までは、そんな残念な会社でした。


潮目が変わったのは2019年。自己株式の買付を始め、1年間で1,000億円を投じました。明確にEPSを引き上げようとしています。

2020年1月には長期経営計画2030を発表し、2030年までにEPS200円を目指すと宣言しました。この時点ではEPSは100円前後だったので、10年で倍にすると言ったに等しいです。

また、事業利益の目標は3,500~4,000億円。この時点での営業利益が2,300億円だったので、利益の伸びは1.5~1.75倍。それでEPSを2倍にするということなので、自己株式の買付で市場にある株を1割以上減らすことを意味します。


長期経営計画2030より引用

先にも書いた通り、不動産賃貸事業というのは資産規模に比例して収入が増えるので、ある意味で収益を計画どおりにコントロールできる事業です。なので、かなり高い確度で、資産持ちだけどお金がない会社から、資産もお金もある会社になることが期待できると思います。

そして、連結配当性向30%を目処とする配当方針であるため、EPSが2倍になれば配当も2倍になります。


株価水準

24年8月23日(金)時点で株価は2,418.5円(終値)。

PERは17.7倍、PBRは1.26倍、配当利回りは1.78%。

4月の高値から株価は低下傾向。

割高ではないかもしれませんが、もっと安い時期を知っている私としては、この値段では食指は動きません。😅

MONEX証券銘柄スカウターより


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