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「女性差別」に対して、広告ができること
SNS上でセクシュアルハラスメントや性的暴行などの被害を告白する「#MeToo」運動が、ここ数年で国境を越えて世界中に拡がり続けたのは記憶に新しい。このような性別による差別や偏見を解消しようという世界的な動きは、広告の世界でも広く見られるようになってきました。
たとえば世界最大級の広告賞であるカンヌライオンズでは、2015年に「グラスライオン(Glass: The Lion for Change)」という新部門が設立されました。この部門では、世界にはびこるジェンダー・バイアスに立ち向かい、それを打ち破ろうとした取り組みに対して賞が与えられることになっています。
今回はこうした世界的な時代の潮流の中で、各企業が実施した女性の地位向上を目指す広告的施策を幾つかご紹介したいと思います。
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1. 贅沢品扱いの生理用品を驚くべき方法で販売
▶︎ Client|The Female Company
ドイツの消費税率は19%ですが、本や食料品などは軽減税率の7%が適用されています。しかし生理用品は19%のまま、まるで贅沢品のような扱いを受けているのが現状。
そこでThe Female Companyは、なんとタンポンを本(The Tampon Book)の付録にすることで、本と同じ「7%の消費税」で販売してしまいました。
2. ポルノ雑誌を買収、最終号でその内容を一新
▶︎ Client|BNP Paribas / Mastercard / Gazeta.pl
女性差別が蔓延するポーランドでは性教育が不足し、男性たちは皆ポルノ雑誌から女性のことを学ぶと言われています。
そのことに危機感を抱いた国内3企業が、人気ポルノ雑誌「Twój Weekend」を買収し、ポルノ要素を一切排除した最終号(The Last Ever Issue)を発刊。性の対象としてではない女性の強さや美しさを特集し、反響を呼びました。(この特集号を最後に廃刊)
3. 女性を広告に出せない国で、女性の姿を広告に掲出
▶︎ Client|Studio C
イスラエルのエルサレムでは女性の姿が広告に表示された際、それを問題視するユダヤ教の超正統派によって広告が破壊される事件が頻発していました。
そこで女性専用フィットネスクラブの「Studio C」では、女性が見ているときだけ広告になる広告、つまり「鏡」を利用した広告で超正統派の妨害を回避することに成功しました。
4. 偉大な男性の陰に隠れた、偉大な女性をピックアップ
▶︎ Client|Stabilo
「偉業を成し遂げた男性の後ろには必ず、偉大な女性がいる」
これは英語圏で語り継がれる諺ですが、換言すればこれまでの時代は女性がどんなに活躍しても男性ばかりピックアップされてきました。
独スタビロ社は、男性の後ろにいる“偉大な女性”を同社の蛍光マーカーで強調し、今尚続く現状に疑問を投げかけました。
5. 浮き彫りにされた男社会の一番の問題点
▶︎ Client|EL TIEMPO
左右に並んだ2枚の写真。一見同じ写真に見えますが、実は右側の写真では「女性」の存在が画像修正で消されています。
「女性がいないという状況自体に気付きにくい」という男社会における問題点を、従来と異なる表現で浮き彫りにしたコロンビアの全国紙EL TIEMPOによる広告。
"The problem is not seeing the problem."
(問題点が見えないこと、それが一番問題なのだ。)
6. 窮屈なイスラム民族衣装による自己表現を提案
▶︎ Client|The Cartel
UAEなど現在では徐々に緩和されている地域はあるものの、依然として女性抑圧の象徴として語られることの多いイスラム圏の民族衣装アバヤ。
ファッションブランドの「The Cartel」は、全身を覆うアバヤと鮮やかな服飾品のコントラストを描き出し、アバヤでも個性豊かな自己表現ができることを主張しました。
7. 女性の服装と性暴力の因果関係を否定
▶︎ Client|ONG Amanda Labarca
「パキンスタンでは2時間ごとに女性がレイプされている。」
「つまり、女性の着けている服装が問題ということではない。」
ブルカ姿のビジュアルを全面に押し出すことで、性暴力は女性の服装が原因ではないというメッセージを強調したチリの団体「ONG Amanda Labarca」による啓蒙広告。
8. 「名誉の殺人」の犠牲者を、雑誌の表紙に起用
▶︎ Client|Karma Nirvana
2003年、パキスタン系英国人の17歳の少女Shafilea Ahmedが、“西洋化”しすぎたことを理由に両親の手でビニール袋を被され、「名誉の殺人」で窒息死させられました。
英国の団体「Karma Nirvana」は抗議の意味を込め、雑誌COSMOPOLITANの表紙に今にも窒息しそうな女性の姿を掲載。事件を風化させないように訴えました。
9. 手荒く縫合された欧米諸国の国旗の意味
▶︎ Client|28 Too Many
「女性器切除(FGM)」の慣習はアフリカや中東など一部の地域でしか行われていないと思われがちですが、実は欧米諸国でも移民の間でひそかに行われていて、社会問題となっています。
これは女性器切除(FGM)がはるか遠い国の出来事ではないことを訴えるため、英国の慈善団体「28 Too Many」がヨーロッパ各国の国旗にFGMを施した啓蒙施策です。
10. なぜか顔の左半分だけが焼けただれた女性
▶︎ Client|Depilex Smileagain Foundation (DSF)
被害者を支援する財団法人「DSF」の広告。パキスタンでは数百人以上の女性が“アシッド・アタック(酸攻撃)”の犠牲になっています。
女性の顔の向かって左側に手を置けば酸攻撃の残酷さ、向かって右側に手を置けば(手術が)彼女たちに与える希望を見出すことができるというメッセージを発しています。
11. 「女性は強い」というメッセージを男性目線で発信
▶︎ Client|Maxim
・仏レジスタンス運動に参加した18歳の少女、Simone Segouin
・1967年、妨害されながらも女性で初めてボストンマラソンを完走したKathrine Switzer
・史上初めて同性愛者の息子とともにプライド・パレードを行進した母親、Jeanne Manford
「だから、女性を愛してる。」 - 英男性誌Maximの広告です。
12. 隣同士に並べられている日本紙幣の意味
▶︎ Client|Women without Borders
オーストリアの女性権利団体「Women without Borders」による広告。日本の一万円紙幣(福澤諭吉)と五千円紙幣(樋口一葉)を比較し、女性と男性の賃金格差の現実を訴えています。
"On average women still earn 50% less, even though they are worth the same."
(女性は男性と同等にもかかわらず、まだ平均してその半分しか給料をもらえていない。)
13. 企業ロゴを上下逆にすることで、国際女性デーをお祝い
▶︎ Client|McDonald's
2018年3月8日、米カリフォルニア州リンウッドにあるマクドナルドの店舗が、国際女性デーを記念してMのロゴマークを“Woman”の頭文字である“W”に変更し、世界中で大きな反響を呼びました。
セクハラなどの諸問題を抱えていた同社だけに本施策は賛否両論あったようですが、好意的な声も多く見受けられたといいます。
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