「関心領域」(The Zone of Interest)
こんばんは。
東京大学お化け屋敷サークルInsomnia PR部副部長のワタナベです。私達Insomniaは不眠症をテーマにお化け屋敷を製作中です。
このNoteは、サークルのメンバーが好きなお化け屋敷やホラー映画など自由に書いていくものです🎃
今回はその第二弾で、Jonathan Glazerの「関心領域」(The Zone of Interest)について書いていきます。
舞台は第二次世界大戦期のドイツ占領下ポーランド。
アウシュビッツ収容所の所長、ルドルフ・ヘスは家族と共に幸せに暮らしていた。
美しい妻、元気な子供たち、自然に囲まれた豪華な屋敷、綺麗に整えられた庭園。
何一つ不自由のない平和な暮らし。
ただ一点、穏やかな日常の奥から微かに聞こえる銃声・悲鳴を除いて…
「普通の日常」に垣間見える「残虐性」
この映画は複数の定点カメラによって加害者側の普通の日常生活を淡々と映していく。
犠牲者側が描かれることはない。直接言及することもない。ただ視聴者に想像させるのである。壁の向こう側で何が起こっているかを。
花を育て愛でる妻、二段ベットでの兄弟の会話、川遊びに興じる子供たち、新しい服を試着する妻。
何の変哲もない普通の日常だ。
ユダヤ人を焼却した灰を肥料に育った美しい花々。二段ベットに寝っ転がってユダヤ人の歯で遊びながら会話する兄弟。遺灰が流れる川。試着する服は奪ったもの。
この映画では「音」がより重視されている。普通の生活の奥から、壁の向こう側から、何かが聞こえてくる。ただし、それが何の音かは明言されない。
銃声の”ように”聞こえる。悲鳴や絶叫の”ように”聞こえる。何かを焼く”ように”聞こえる。
ただ観客に想像させるのである。その音が何なのかを。壁の向こう側で何が行われているのかを。
この映画は彼らを悪人だと直接語らない。ただ事実を提示することに注力している。そのための定点カメラであり、そのための「音」である。
「無関心」とその上に成立する「幸せ」
彼らはユダヤ人の存在を知っている。彼らは壁の向こう側で何が行われているのか知っている。
だがそれには無関心で、普通に食事をとり、普通に風呂に入り、普通に就寝する。もしくは無関心を装っているのかもしれない。壁の向こう側と向き合うのが怖いから。父親が彼らを日々虐殺しているから今の裕福な生活ができていると認めたくないから。
だが、彼らが糾弾されるべきかと問われたら、簡単には答えられない。
このような状況は世界各地で時代を問わず行われていたから。
古代ローマの剣闘士、16世紀から18世紀の大西洋奴隷貿易、江戸時代のえた・ひにん。
彼らによって幸せが成り立つから、彼らによって政権が維持されるから、無関心である、もしくは、無関心を装う。
自分達の幸せのために無関心になるというのは人間の恐ろしさ、一種の防衛本能なのかもしれない。だから彼らを責められるかと言われたら簡単にはイエスと言えない。
最後に
今回はJonathan Glazerの「関心領域」(The Zone of Interest)を紹介しました。真に恐ろしいのはお化けより人間なのかもしれませんね。このNoteを読んで興味が湧いた方はぜひ映画館に足を運んでみてください!
お化け屋敷サークルInsomniaでは、お化け屋敷製作に向け日々活動しています。この映画で使われている定点カメラやサーモグラフィー・音による表現技法は我々の製作にも活用できるのではないかと思いました。
当サークルの今後の活動にぜひご注目ください!