「AI x ペアリング」食で人を幸せにする【事業紹介#1】
ペアリングとは、料理とドリンクが完璧に調和しお互いを引き立て合い、
食事のおいしさと感動が口いっぱいに広がる瞬間です。
そんなペアリングをAIで実現し、誰もが幸せに過ごせる食空間を創ります。
はじめまして。新規事業部所属、入社2年目の長谷川将弥です。
これから弊社で実現を目指す、AIペアリング事業についてお話しします。
ペアリングとは?
みなさんはソムリエのいるレストランで食事をしたことはありますか?
ソムリエといえば、高級なお店でワインをサーブしてくれるイメージがありますよね。実は、ソムリエはワインをサーブするだけでなく、お店の料理と抜群に合うドリンクを提供してくれます。
「マリアージュ」「ペアリング」なんて言ったりします。
料理とドリンクが最高の組み合わせで、お互いの良さを引き立て合い、口いっぱいにおいしさと感動と幸福感が広がります。
私も会社で何度か体験する機会がありましたが、もうとにかく感動するおいしさでした。料理を一口味わい、その余韻が残っているタイミングでワインを飲むのですが、口の中の世界が変わり、思わず笑みがこぼれるほどおいしかったです。また行きたい、また次の日も体験したいと思うほどでした。
実際に体験してみないと伝わらない魅力がたくさんあり、とても楽しい食体験になるので、ぜひみなさんにもペアリング体験していただきたいです!
東京・名古屋でペアリングが体験できるお店をいくつかご紹介します。
気になる方は、ぜひ一度足を運んでみてください。
AIペアリングが目指す姿
そんな食を幸せにするペアリングですが、日ごろから楽しめる機会は多くありません。いくらペアリングが好きだからといっても、毎回ソムリエのいるレストランで食事をするのも、あまり現実的ではありません。
そこで私たちは、AIにソムリエになってもらい、ペアリングを薦めてもらうことで、誰もが気軽にペアリングを楽しめる場をつくることを目指しています。
具体的には、
飲食店さんの料理を分析し、相性の良いワインや日本酒を提案する
お客さんの好きな料理とドリンクから、その人に合うペアリングを薦める
といったことを実現していきます。
AIペアリングによって、普段からよく通っているようなレストラン・居酒屋で、誰でも気軽にペアリングを楽しめるようになるのです!!
AIペアリングを通して、より多くの人が日ごろからおいしく幸せな外食を経験し、豊かな時間を過ごし、日本の食文化を豊かにしていきます。
ペアリングの理論
さて、「AIでペアリングを実現する!」と張り切ってはいても、ペアリングは洗練されたソムリエの感覚によって実現されるものなので、AIに落とし込むハードルは高いです。
料理とドリンクのそれぞれの要素がどんな組み合わせの時に相性が良いのか分かりませんし、またAIで扱うには料理もワインも数値化しなければなりません。
AIでペアリングを実現するために必要な理論として、トップ・ソムリエの大越基裕さんの著書『ロジカルペアリング』を参考に実現を目指していきます。
『ロジカルペアリング』によると、ペアリングには5つの種類があるそうです。
1. 同調のペアリング
料理とドリンクで味の方向性を揃えます。
味には「甘味・塩味・酸味・苦味・旨味」という基本五味があります。料理とドリンクで同じ味を合わせることで、まとまりのある味わいが楽しめます。
サラダに柑橘系のドレッシングをかける場合を考えると、「グリーンサラダ」は甘味が少ないため、ライトでフレッシュな酸のあるリースリングという白ワインが合います。甘味の多い「白桃と海老のサラダ」の場合は、果実味と酸のしっかりしたシャルドネを合わせます。
2. 中和のペアリング
味の「抑制効果」を使って味のコントラストでバランスを取ったり、また料理とドリンクの「重さ」を合わせたりするペアリング方法です。
「抑制効果」とは、酸味が脂っぽさを抑えるなど、味の組合せによって相手を抑える効果のことを指します。
塩味の強い料理に甘味のあるドリンクを合わせると、抑制効果が発揮されます。これが理由で、塩辛には甘みのある日本酒が合うのです。
また、「重さ」の中和の例として、油脂分の多い牛のロース肉には、渋みの強い赤ワインを合わせます。油脂分の少ない鶏肉には同じワインだと渋みが強すぎてしまうため、渋みの少ないピノ・ノワールという赤ワインの方がマッチします。渋みや酸味にある油脂分を抑制する効果を狙ったペアリングです。
3. 五味のペアリング
料理の味にドリンクの味を差し込んだり補佐したりするペアリング方法です。料理の余韻に対してドリンクを合わせて、口内の味の変化を楽しみます。
サンマの塩焼きにレモンを絞るのは分かりやすい例です。サンマの塩焼きは塩味と旨味で構成されていますが、ここにレモンの酸味を差し込むことで、味のバランスが変わります。
日本酒は旨味のあるドリンクであるため、旨味のある料理にはワインよりも日本酒の方が合う場合が多いです。旨味 x 旨味には相乗効果が期待でき、旨味の増幅で料理が美味しくなります。
4. フレーバーのペアリング
料理とドリンクで同じ種類の香りを合わせることや、違う香りの組み合わせによるハーモニーを楽しむペアリングです。
ほうれん草のおひたしは味付けにより合わせるべきワインが変わります。醤油とかつお節を使って味付けする場合はベリーの風味のある赤ワインが合いますが、塩ポン酢とユズの皮を使うなら柑橘系の香りのする白ワインの方がよく合います。
香りを発する化学分子に焦点を当ててペアリングすることも考えられます。
5. テクスチャーのペアリング
硬さや口内で感じる質感を狙ってペアリングする方法です。
嚙み応えのあるステーキには、渋みの強いしっかりした赤ワインがよく合います。逆にふわふわと軽い食感をしたホタテの揚げ物には、ワインよりも粘性が高く柔らかい日本酒の方が合って美味しいです。
これら5つのペアリング理論をベースに考えていけば、AIペアリングの実現も見えてきます。
最近は「味覚センサー」「食感センサー」など、料理やドリンクを数値化する技術も発展しています。センサーを使って味や食感を数値化すれば、美味しい組み合わせが見つけられそうです。
ペアリングとAI
ペアリングをAIで実現するためには、最先端のAI技術を使うことが必須です。ここでは、AIペアリングの実現に使えそうな技術をいくつか紹介します。
1. グラフニューラルネットワークでレシピから料理の味を数値化
料理の味を味覚センサーで計測すると言ったものの、AIペアリングを使ってもらうすべての飲食店さんの料理を計測するのはあまり現実的ではありません。
センサーにかけずに料理の味を教師あり学習で推論できれば、AIペアリングの活用の幅が広がりそうです。
料理のレシピは「フローグラフ」を利用してグラフで表すことができます。フローグラフでは、調理過程の食材や料理をノード、調理作業をエッジで表します。
料理をグラフ構造で表し学習できれば、食材がもつ特徴や、「焼く」「煮る」「一口大に切る」といった調理工程を数値的に表すことができます。これらの数値を総合的に加味し料理の味を数値で予測できるのです。
グラフニューラルネットワークを利用して料理の味を予測できれば、レシピさえあれば味が分かり、すべての料理をセンサーにかける必要がなくなります。
2. 料理とドリンクを一つの潜在空間で表す
機械学習の研究分野の一つに「潜在空間」というものがあります。
最近流行りの画像生成AIでもこの技術を利用しています。潜在空間を使えば、情報量を保ったままデータを圧縮し、より少ない数値でデータを表現できます。
また、潜在空間の軸には意味を持たせることができます。下の画像では、潜在空間を縦と横の2軸で構成した結果、それぞれの軸の値によって対応する画像が変化しています。
この潜在空間を使えば、ワインを潜在空間上で「渋み」の軸や「酸味」の軸で表現することが可能かもしれません。上記の図で言うと数字の代わりに、個別のワインが表されるイメージです(実際には難しいので2軸ではなくさらに多い軸で表現します)。
また、複数の種類のデータを共通の潜在空間で表すことも可能です。「マルチモーダル」という研究分野が該当します。
最近は文章(プロンプト)を入力して、それに沿った画像を生成するツールがよくありますが、これにはCLIPという技術が使われています。
CLIPでは、同じ意味を持った画像や文章を潜在空間上の近い位置に、異なる意味を持ったものは遠い位置に表現されるよう学習しています。
このマルチモーダルな潜在空間をつくる技術をペアリングに応用できそうです。料理とドリンクを同じ空間に埋め込んで、合う組み合わせは近い空間に、合わない組み合わせは遠い空間に、同じような味わいのドリンクを近い空間に位置させます。
油脂分の多い牛のロース肉の近くに渋みの強い赤ワイン、ホタテの揚げ物の近くに粘性が高く柔らかい日本酒が位置するイメージです。
これにより、料理とドリンクの関係性が分かり、潜在空間からペアリングの提案が可能になります。
3. ペアリングに詳しい大規模言語モデル
ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)ですが、独自のデータでさらに学習することが可能です。
ワインや日本酒、そしてペアリングの文章を大規模言語モデルに学習させれば、ソムリエの役割を担うチャットボットが実現できるかもしれません。
また、チャットボットがお客さんと楽しそうに会話できれば、楽しいひとときが創れそうです。
店員さんがお客さんへ料理やドリンクの説明をする際に、お客さんの時間をジャマしない心地よいタイミングを見計らって説明することもできますし、注文も取れればなお便利です。
近年タブレットから注文する飲食店さんが増えていますが、デジタルに不慣れな方には操作が難しいとの声もあります。
タブレットを使わずに会話で注文できれば、バリアフリーな飲食店も実現することができます。
ヒトが喋るような抑揚で話す生成AI技術も出てきています。常連さんにはその人に合った話し方をし、冗談を交えて発言してくれるロボットがいれば、食空間にさらに笑いが生まれそうです。
さいごに
これから最先端のAI技術を利用して、ペアリングという食体験を広め、食空間がさらに素敵になるサービスを目指していきます。
誰もが日ごろからペアリングを楽しめ、人々の幸せも、日本の食文化もさらに豊かになっていきそうです!
このサービスの実現に邁進してまいります。
興味を持っていただいた方はぜひ一度お話ししましょう!
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