【高栁昇】編集者、写真家、デザイナーのための写真印刷術〜第2回:写真集のモノクロとカラーの製版と印刷
みなさん、今晩は。心がウキウキする金曜日です。週末はどう過ごそうか、今日は飲みに行こうかなという時に、この講座にご出席頂きまして有難うございます。先ほど、伊勢先生から、私の役割や仕事について、かなり高尚なレベルでご説明を頂きましたが、何のことはない。渋谷のハチ公前でキャッチセールスと間違えられたPD(プリンティングディレクター)です。本当の話ですよ(笑)。
さて、桜の開花の季節ということで、私なんかも桜が大好きです。だいたい東京都内、地元埼玉県の本庄と、あとは群馬県、長野県あたりまで大体年3回位は観に行きます。
やはり犬の散歩をしながら早朝、夜が明けたばかりの桜も少し青みがかっていて美しいですし、晴天の空の下で光をさんさんと受けている桜も綺麗ですよね。あと、お酒を飲まれる方なんかは、夜桜が一番好きという方もいらっしゃると思います。
やはりですね、桜の色って、朝、昼、あるいは若干の小雨の中でみるしっとりとした桜の花、あるいは夜、人工照明の下でみる桜の花、みんな色が違いますよね。
私ごときの俗人が、こんな話をしていいのか分かりませんが、例えば仏教の最高教義といいますか。般若心経でいうところの「色即是空、空即是色」、宇宙の物質というのは全く実態のない空(くう)である。その空である世の中で、実態を持った「色」があるというわけです。そして、私にとって色というものは楽しんだり、格闘したりする対象というわけです。
さらに言えば、光すら実体がないわけです。光も色も実体がない。その中で、いかに写真集作りという仕事に取り組むべきなのか、自問自答の日々です。本日は大きく分けて、モノクロの製版法とカラーの製版法という2つのテーマを取り上げます。加えて皆様から予め頂いておりましたご質問に回答する形で議事進行させて頂き、最後に質疑応答の場を設けさせて頂こうと思います。今日は私の得意科目、まさに日々の生業にしている内容になりますので、大方の質問にはお答えできるとおもいます。ぜひ遠慮なくご質問下さい。
1,モノクロ印刷の製版法
若干前回の復習も入りますが、まずモノクロ製版法について。前回の講座で、グラビア印刷がよかったというお声が多いというお話をしました。その理由も、解き明かしました。グラビアはインクの顔料濃度が60%、かたやオフセットは25%から30%ということ。まずは顔料の差がある、つまりインキの濃度差があるということ。なおかつ、転移するインク量もオフセット印刷より高い。なぜかというと、溶剤を熱で飛ばしてしまいますから裏付きの心配もなく、オフセット印刷よりインキを多量に紙に転移できるわけです。
さらに、発色方法もモノクロプリントに近い。銀塩のモノクロプリントというのは、銀粒子の黒いところほど体積が多いわけです。明るいところほど体積が少ない。
モノクログラビア印刷は極めてそれに近い印刷方式ですから、インキ濃度が高い。体積で色の濃淡を表すので、オフセット印刷と比べて再現領域が広いということですね。
オフセットでモノクロプリントを再現しようとなると、インキの濃度が低いですから、スミ1色ではグラビアに匹敵するコク(濃度)を出すのは難しい。また、オフセットの場合は色の濃淡を網点の大小で表しますから色の明るいところは網点が小さくなる。そうすると、どういう現象が起きるかというと、色が飽和してしまう。小さい網点が紙白の反射に負けて、網点がさらに減衰して見えます。そうすると、階調が貧困になるということです。従って、オフセットでモノクログラビア印刷の濃度や階調に負けない表現を実現するためにはスミとグレーのダブルトーンが基本ですよ、というお話をしました。
ダブルトーンについて図でご説明します。縦軸Yに網点パーセンテージ、X軸を濃度(density)とします。スミ版についてはゼロ%(網点が無い状態)から99%、場合によっては100%の網点で色の濃淡を表現します。
スミ1色ですと、明部側の階調が減衰してしまうから、グレーを入れるわけです。大体7%から80%部分をグレイで表現します。この相乗効果で、グラビア印刷の持っている、暗部側のコクであるとか、明部側の階調の豊かさを再現しようとします。これがダブルトーン(モノクロ)印刷の基本になります。
ただし、どうしても一色だけでコクを出して下さい、というご相談を頂く場合がたまにあります。どうしても、装丁周りにお金かけたいからとか、コストの問題ですね。私、装丁でお金もらえませんから。「中身は1色でなんとか..」と言われても困るわけです(笑)。ただ、できないというのは癪ですから、こうします。
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