【1分読書】『冬のロックンロール』
『冬のロックンロール』
今日も寒い。精一杯の厚着をし、部屋に閉じこもる。就職で上京してもう一五年が経とうとしていた。先日も一着だけ持っている晴れ着で街に出たが、なぜか気分が上がらず陽が傾く前に帰ってきてしまった。せっかく街に出たのだし、美味しいラーメンでも食べて帰ればよかった、と後悔した。そんな事ばかりだ。
「佐藤。一緒に帰ろう」
高木部長。同期である私と高木との違いは、役職だけでは無い気がした。どこで間違えたんだろうか。高木と違って私は何も成長しない。
「すいません」
部屋の外で少し怒ったような、鬱陶しそうな声がする。隣に住む若夫婦の夫だ。
「はい」
「おじさん。テレビの音うるさいよ」
「すみません」
音をたてて閉まるドア。
これはラジオだ。私は、ラジオから流れ出るロックンロールの音量を少し上げる。