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【1分読書】『僕は食べられる。僕は食べられない』

『僕は食べられる。僕は食べられない』
 階段を登り、その足を進めるごとにこの階段が崩れ落ちてしまわないかと不安にかられる。一階上がるたび、その間隔は伸び階を重ねるのがしんどくなってくる。力を込める手に目をやると、りんごが汁を垂らしている。
「りんご買ってきて頂戴」
 母の言葉だった。その言葉とおり果物屋へ行った。そして一番熟れている物を選んで家路に着いていた。
 廃墟ビルとは人を引きつける。
「母さん、買ってきたよ」
 まっすぐ帰り、母にそうやって言ってやりたかった。しかし今はただただ階段を登っている。
「僕はりんごすら食べられないんだ」
 その屋上からの声に応える。
「違うよ。君も食べて良いんだ」
 廃墟ビルの屋上ではりんごすら食べることの出来ない僕が待っている。

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