「今日も楽しかったわ。ありがとうー!また飲みに行こなー。」
熱燗をひとりで飲んでたら、50代と思しきおっちゃん2人の話が聞こえてきた。
おっちゃんA「〇〇くんは根は真面目やけど、仕事ができへんよなー」
おっちゃんB「わかるわー。根は真面目なんやけど融通がきかんねんな」
よくある会社の愚痴かなと思いながら少し冷めた熱燗をまた少し飲む。
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「おいしいお酒ってなんなんだろう」
最近そんなことを考えながらお酒を飲むことがある。
気のおけない友人と飲むお酒。おなじ法人で働く仲間と飲むお酒。居酒屋で出会ったおじさんと飲むお酒。
どのお酒も好きだ。いろんな席があって、いろんな出会いがある。
生きていると愚痴を言いたくなる日もある。泣きたくなる日もある。だれかと一緒に喜びたい日もある。
楽しい日も、嬉しい日もある。苦しい日も、悲しい日もある。
悲しいお酒もあった。楽しいお酒もあった。だれかに愚痴を言ってばかりのお酒も数え切れないぐらいあった。
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よく行ってるお店の暖簾を初めてくぐったのはちょうど一年前ぐらいだった。
少し暖かくなって来た3月ごろから頻繁に行くようになった。
「お酒は楽しく飲むもんやで。それが一番うまいねん。」
店員さんとしゃべるようになって最初の方に言われたのを覚えている。
きっと3月ごろの僕は楽しくなさそうにお酒を飲んでいたんだろう。愚痴っぽかったんだろう。
歩くたびに「生きるのをやめたい」と願っていたのだから、控えめにも心身ともに健全だったとは言えない。そんな感情がにじみ出ていたんだろう。
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あれから何ヶ月もたち、初めて暖簾をくぐった季節がまたやってきた。
あいかわらず僕の財布はすっからかんだし、泥臭く毎日の仕事を進めるだけの日々だ。特に代わり映えもないけど、愚痴っぽさはいささか抜けたのかもしれない。
「人生なんていろいろあってちょうどいい」
やっとそう思えるようになった。やっと本当に「おいしいお酒」を飲めるようになったのかもしれない。
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好きなお酒はたくさんある。日本酒もウイスキーも焼酎も好きだ。
でも本当に「おいしいお酒」はまた別だ。
大切な友人、大切な仲間、隣にいてくれるだれかと飲むお酒はきっと「おいしいお酒」だ。
値段でも、銘柄でもなくて、大切な人たちと飲むお酒が「おいしいお酒」だ。
楽しい日も、嬉しい日もある。苦しい日も、悲しい日もある。
愚痴っぽくお酒を飲むこともあるし、悲しい話をしながら飲むお酒もある。でもそんな話を肴にしながら、帰る頃に楽しい気持ちになれればそれでいい。
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会社の愚痴を言ってたおっちゃん2人が帰るらしい。
「今日も楽しかったわ。ありがとうー!また飲みに行こなー。」
そんな声が聞こえてくる。「あ、おいしいお酒になったんだな」と思いながら、僕は冷酒をまた半合頼む。