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映画、俳句、日本画、江戸、サムライ。。。雑食な読書風景。

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最近の記事

クリスマス・ソング―望郷から消費の時代へ

大ヒットソングは歌の力だけでなく、時代とシンクロすることで化けていくものだ。牧師役でアカデミー賞を獲った(我が道を往く)ビング・クロスビーの「ホワイト・クリスマス」の場合、第二次大戦中、戦地で流れたことが決定的だった。 欧米社会ではクリスマスは家族と過ごす時間。「望郷」が、ポピュラーの大きなネタだったのは、映像が少なく、移動時間も長かった時代の、テーマなのだろう。大島渚の「戦場のメリー・クリスマス」は、やはり狙いどころがよかったのだ。映画は相変わらず理屈で組み立てられていた

    • アナキストとエロス、あるいは女権の女たち

      (承前)このあたりのことには思い出がある。大杉栄の最初の愛人で、伊藤野枝に愛が移るの気取って、大杉を日蔭茶屋で刺し、戦後は社会党の代議士として売春防止法に尽力した神近市子(写真、津田塾出身)を、子供時代テレビで見た私は、何も知らず、「このきれいなおばあちゃん、僕のおばあちゃんに似てるね」と親戚一同の前で語って、大人を絶句させたことがあったのだ。 というのも私の祖母は、「青鞜」にこそ入らなかったが、女子学院の一期でタイピスト、鉄道省では年下のイケメンの祖父を捕まえて働き続けた

      • 独裁者にはチビが多い訳

        飛行機で映画「J・エドガー」を観た。FBI長官として50年近く君臨したフーバー長官をレオナルド・ディカプリオが演じた。映画として成功作ではないが、監督のクリント・イーストウッドが、盗聴によって得た情報でこの特殊警察を作り上げていった男の人格形成に焦点を当てていたのが興味深かった。 生涯独身で母親と住み続けたフーバーが、副長官トルソンと同性愛の関係にあったことは、いまや周知の事実と言ってよいが、映画では、ジュディ・ディンチ演じる強烈な母親の指導によって、ダンスの踊り方まで教え

        • ハリウッドの本質は暴力、精一杯のウィットを込めて

          飛行機で観ました。「ワンスアポンアタイム・イン・ハリウッド」。60年代末というのは、かつてのハリウッドの栄光が変質し始めた最初の時期。 ディカプリオ演じる落ち目の西部劇TVスターと、ブラピ演じるスタント・マン。この二人を通して、西部劇=暴力こそがハリウッドの本質であることを、映画的記憶の心憎い引用にウィットを交えて描いた。 これは、オタク監督ティム・バートンが、最低趣味恐怖映画監督の実話に基づいた「エド・ウッド」を撮った趣向に近い。監督のタランティーノが上手いのは、マーゴット

          女シャーロックに弟ワトソン

          ドラマは余り観ないのだが、NHK金曜1000のこれは結構見てい入る。ジャンルはミステリー。推理ものの王道は、シャーロック・ホームズという、理系でアスペルガーっぽい謎解き役の存在にあるがが、これを女性理系研究者に設定したのが今どき。 こういう役は、前例がないので、役者を選ぶが、松雪泰子が当たり役。思えば「白鳥麗子でございます!」でデビュー以来、美貌がありながら、どこか欠落している笑いや寂しさを演じてきた女優さんだった。彼女も独身だったかな。 ドラマのキャラクターも、一般的な

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          オスカー・シーズンを迎えて:新しい撮影の戦争大作

          12月に入ると、アメリカ映画の各賞のノミネート・発表が相次ぎ、来年2月発表のアカデミー賞授賞式までレースが展開される。詳しくはこのリンクをご覧あれ。http://filmplanet.world.coocan.jp/oscar/ 作品賞の台風の目として注目されているのは、第一次大戦を扱ったこの大作。監督は「007スカイフォール」のサム・メンデス。師匠のスピルバーグが大絶賛。 日本人は疎い、第一次大戦とは、戦争の悲惨が最初に先鋭化した戦いである。反戦思想も生まれる一方、パッ

          オスカー・シーズンを迎えて:新しい撮影の戦争大作

          ノスタルジーという「裸踊り」

          中曽根元首相が亡くなった。英国でサッチャー元首相が亡くなった時、格差怨念映画監督是枝裕和が敬愛するケン・ローチは「彼女の葬儀を民営化しましょう。競争入札にかけて、最安値を提示した業者に落札させるのです。きっと彼女も、それを望んでいたことでしょう」とコメント。 英国では炭鉱業、日本では国鉄の自由化(解体)こそ、新自由主義の始まりである。古い労働党員は、サッチャーの悪夢に後々までうなされた、という。私の知人も栄光の国鉄マンの息子で、オヤジは失職して明太子屋に出向したことに憤慨し

          ノスタルジーという「裸踊り」

          エッジの効いた新しさは、クラシックの引用・対話から:市川崑

          以前日経新聞「私の履歴書」で、草笛光子が、東宝映画横溝正史シリーズの思い出を書いていた。監督の市川崑は、モダンで革新的な映像・編集の人だが、「犬神家の一族」の冒頭の一族が集まるシーンで、金屏風のライトにダメ出しが出て撮影が延期になった話など紹介され、ああこれが映画の本物感を生むのだなと改めて思った。 市川はシリーズで、江戸文芸を盛んに引用する。「犬神家」では、歌舞伎「鬼一法源三略巻」の見立て菊人形に生首が。「悪魔の手毬唄」では、岸恵子演じる旅館の女将が、元は娘浄瑠璃の芸人で

          エッジの効いた新しさは、クラシックの引用・対話から:市川崑

          日本の理系は「目玉」屋で終わるのか?:ブレード・ランナー

          今年前半のネット記事で注目したのは、ダイアモンド・オンラインの「ファーウェイのスマホ事業「崖っぷち」、英アーム制裁追随の深刻度 」。 https://www.msn.com/…/ファーウェイのスマホ事業-崖っぷち-英アーム制裁追…/ar-AABOuLD… アームとは、半導体の心臓部であるCPU(中央演算処理装置)を設計し、その“設計図”を半導体メーカーに提供することに特化した、IP(知的財産)を武器とする企業だ。アームの設計図の強みは、低消費電力だ。この特徴が支持され、今で

          日本の理系は「目玉」屋で終わるのか?:ブレード・ランナー

          目に注射を刺す「痛い」映画

          近代の作家が、小説の神様として崇めた西鶴の「語り」は、まるでマジックのように、一つの「秘密」を設定しては、それを謎説くと同時にまた新たな「秘密」を生み出してみせる。その展開も意外性に満ちている。あの、疾走感を生み出すのは、次々繰り出される「秘密」の展開にあると確信する。 周到に計算しただけで、あれはできない。やはり「天才」というべきか。それと現代語では冗長になってしまうところを、言葉の連想力を信頼して省略を効かせている点が、文体の魅力でもあり、構成の鮮やかさにもつながってい

          目に注射を刺す「痛い」映画

          人種:日本人には解りにくいアカデミー賞の事情

          アメリカ映画は、政治と切り離せない。従って、ハリウッドの祭典、アカデミー賞は、その年のアメリカにおける一番の問題を取り上げた映画が選ばれることが多い。 昨年の受賞は、白人と黒人の「融和」を描いた「グリーン・ブック」。そして、脚本賞では、ハーバード、コロンビア、ニューヨーク大学で常勤の大学教員でもある、スパイク・リーの「ブラック・クラングスマン」が受賞。 スパイク・リーは、「Do the Right Thing」 や「マルコムX」など、黒人差別を正面から描いた映画で物議をか

          人種:日本人には解りにくいアカデミー賞の事情

          天皇?皇帝?どちらが有用?

          The Last Emperor(1987)。私の同世代の女性は一世一代の美男子ジョン・ローンの魅力にやられたのだが、確かに美術と音楽の映画。ドラマは弱いし、史実の改変も多い。 でも、中国のことを考えるとき便利な映画だ。東アジア3000年の歴史で、中国がつまずいたアヘン戦争、そして日清戦争から100年余りを当たり前と思ってはいけない。 溥儀が3歳で即位してから、ロンドン大学のレジナルド・ジョンストン教授に教えを受けるあたりまで。皇帝の孤独な儀式の世界を、浮かび上がらせる視

          天皇?皇帝?どちらが有用?

          詩の朗読はノスタルジーの彼方へ

          旧式のエレベーターに象徴されるホテルを舞台にした物語。サイレント映画の画面の動きと、固定されたカメラの視点をデジタルで再生する、ノスタルジックな仕上がりの作品。映画のテンポも音楽も旧式に作られているようで、実はコミックのコマ割りと同じなのだ。 主人公の一流コンシェルジェが、お金持ちの顧客の遺言により、名画を譲られることから物語が動くが、時代背景はナチの問題。その深刻さを、ノスタルジックな描写で和らげている。 主要な役者が、「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」などナチ

          詩の朗読はノスタルジーの彼方へ

          緊急事態の意思決定を蝕む平和主義

          1954年版では、海上保安庁協力のテロップしかなかったが、2016年版は、ラストに三自衛隊の各方面基地が事細かにテロップ。これが、この寓話の背景を象徴している。主役は自衛隊とそれを使う政策実行者(官僚)と科学者のチーム。 一番のテーマは、地震と原発(戦争の隠喩)。「この国はスクラップ・アンド・ビルドで立ち上がってきた」「(コントロールできれば夢の生命体である)ゴジラとこれからも共存するしかない」との後半の台詞に象徴される。 日本の意志決定にからんで、多国籍軍の枠組みやアメリ

          緊急事態の意思決定を蝕む平和主義

          元は声美人、今は整形美女のギャップが生み出すドラマ

          ブス街道まっしぐらの、ゴースト・シンガー、カンナが、死んだつもりで全身整形。憧れの彼(プロデューサー)の前で、正体を隠して、アメリカ帰りのジェニーとしてオーディションを受ける。 https://www.youtube.com/watch?v=1y_zAyf06zo&fbclid=IwAR0mNJqggM7fwuT7JENyzssSaQLeJnN_9oGG4En6gqu11j-HUSxkW4tVXFg 主演のキム・アジュンは、吹き替えなしの歌唱力の持ち主。(動画中のオッサンの

          元は声美人、今は整形美女のギャップが生み出すドラマ

          黒澤映画の文法:喚起する映像とは

          映画と文学・芸術は、やはり通い合う。 風景は名句のように、編集は小説家の語りのように。音楽のように言葉でなく動きで感情とリズムを現し、絵のように構図を決めて演技させる。 https://www.youtube.com/watch?v=doaQC-S8de8&fbclid=IwAR1alwDt_El90N86TW_-SnBTYNTxQrZHFlh4QMN91KPP6QWFd_g3beqnmtw 逆にゲームに慣れ切った頭脳と特殊効果の多い映画が、いい映画・いい芸術を亡ぼす。マ

          黒澤映画の文法:喚起する映像とは