彼等の背負っている因縁は、自由に彼等を操った

 三人は妙な羽目に陥った。行がかり上一種の関係で因果づけられた彼らはしだいに話をよそへ持って行く事が困難になってきた。席を外す事は無論できなくなった。彼らはそこへ坐ったなり、どうでもこうでも、この問題を解決しなければならなくなった。
 しかも傍から見たその問題は決して重要なものとは云えなかった。遠くから冷静に彼らの身分と境遇を眺める事のできる地位に立つ誰の眼にも、小さく映らなければならない程度のものに過ぎなかった。彼らは他から注意を受けるまでもなくよくそれを心得ていた。けれども彼らは争わなければならなかった。彼らの背後に背負っている因縁は、他人に解らない過去から複雑な手を延ばして、自由に彼らを操った。

『明暗』百七

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