PPIについて
今回は先週質問を受けたPPIについて勉強していきたいと思います。
え?PPIが何か知らないって?
お答えしましょう。PPIとはProton Pump Inhibitorの頭文字から生まれたプロトンポンプ阻害剤の略です。
消化性潰瘍などに用いられる所謂胃薬です。消化性潰瘍の薬は攻撃因子抑制薬と防御因子増強薬がありますが、PPIは攻撃因子抑制薬に分類されます。
胃粘膜は常に胃酸やペプシンなどの内的刺激、また薬やアルコールなどの外的刺激にさらされています。これら攻撃因子から胃粘膜を保護する防御因子としてムチンや重炭酸のような胃粘液、粘膜血流、プロスタグランジンなどの防御因子が挙げられます。
胃粘膜は胃酸に耐えるような強靭な組織ではなくちゃんと自衛していたんですね!
ここでの詳しい生理学的な解説は割愛しますが、G細胞、ECL細胞など国試の時に勉強したような気がする細胞も関与しているので復習してみてください。
そしてこのバランスが崩れると消化性潰瘍などになってしまいます。
そして消化性潰瘍の原因として一番多いのはNSAIDsの服用、次にピロリ菌によるものらしいです。それ以外にはステロイドの服用や70歳以上の高齢者などもあります。
では今日の本題、「PPIってプロトンによる活性化が必要なのに胃酸に対して不安定なのはなぜ?」です。
解説します。PPIは経口服用したあと腸内で吸収され血液に入り、血液中から壁細胞に入り、そこで管状小胞または分泌細管に移行します。その小胞内や細管中は酸性であるために、塩基性薬物であるPPIはイオン化して細管中に蓄積されます。イオン化したPPIはスルフェンアミドという平面構造をとり、これがプロトンポンプのSH基と共有結合することによって酵素活性を非可逆的に抑制します。
最近、本の図とかをどこまで載せていいのかわからないので図は割愛します。図がないとわかりにくいけど調べたらすぐ出てくると思います。
そしてなぜそれが胃酸に対して不安定に絡んでくるのかですが、活性型は非常に不安定で速やかに分解されてしまうこと、また吸収されにくいことにより胃酸に対して不安定と言われています。なのでタケキャブ®(ボノプラザン)を除くPPIはすべて腸溶剤となっています。
この前の薬剤師国家試験にもつながりますがPPIがタケキャブ以外粉砕できない理由はここにあります。
まあタケキャブも光に対して強くなかった気がするので粉砕の際は注意が必要ですが。
今日は図を載せずわかりにくい記事になりそうなので、他の雑学でカバーしていきたいと思います。
雑学①「共有結合」
共有結合は、およそ50~150kcal/molの大きな結合エネルギーを持つ安定な結合であり、一度結合が形成されるとその結合は容易に開裂できません。もちろん僕はこの50~150kcal/molがどれくらいのエネルギーなのか知りませんが、仮に100kcal/molとするならば5mol分の共有結合がメロンパン1個分に匹敵すると考えると膨大なエネルギーということがわかりますよね?????
したがって、共有結合の形成は核酸、酵素および受容体の生理活性を不可逆的に阻害します。
共有結合によって作用発現をする医薬品はシクロホスファミド(エンドキサン®)のC-N結合、βラクタム系抗生物質のC-O結合、そしてPPIのS-S結合などがあります。
PPIの活性型に含まれている環状スルフェンアミドには反応性の高いN-S結合の硫黄原子があり、この反応の高さが不安定な原因の一つだと思うのですが、この硫黄原子をH⁺/K⁺-ATPase中のシステイン残基のSH基が攻撃しジスルフィド結合を形成することで酵素活性を阻害すると同時に活性型の不安定さを解消します。しますと言いましたが、僕の考えであり実際は知りません。
雑学②「プロドラッグ」
プロドラッグの定義ってなんですかね。僕はなんとなくしか知らないので調べてみたところ、日本薬学会の薬学用語解説では
「体内で代謝されてから作用を及ぼすタイプの薬」となっています。
プロドラッグの目的は、①副作用の軽減、②作用の持続化、③吸収増大、④水溶性増大などが挙げられます。
また似た単語にアンテドラッグ/ソフトドラッグがあります。これらはざっくりいうと特定の部位でのみ強く作用し、体内に吸収されることで急速に不活性化し、効果を失う薬剤のことです。ステロイドの外用薬などがそうですね。アンテとソフトの違いはよくわかりません。
そして今回言いたいのは、PPIはプロドラッグの一種という記載を散見しますが、別に代謝されているかというとされていない気がするしどうなんでしょうね、ということ。別に深い意味はなく素朴な疑問。病院で薬剤師してる限りはどうでもいいです。
雑学③「PPIとH2ブロッカーの違い」
ざっくりいうと、作用の強さと投与日数の違いです。用法で比較するのはナンセンスな気もしますが、PPIは1日1回投与に対してH2ブロッカーは1日2回投与が多いです。本当は半減期だったりIC50で比較すればいいと思うのですが、難しいので気になった人は自分で比較して僕に教えてください。
投与日数については添付文書を見てみてください。PPIは上限が決められています。正直、病院で約1年薬剤師をやりましたが、よくわかっていません。PPIが永遠に出てる患者もいるような気もしますが、とりあえず添付文書的には上限が決められています。
余談になりますが、PPIの注射剤は1日2回投与になっています。それは重症な患者を想定しているからです。たぶん。よくあるのが経口PPIからの切り替えでオーダーが1日1回になっているから問い合わせ。ステロイド注射と併用で出ていると、副作用対策で1日1回なのかなと思って念のため問い合わせすると案の定入力ミスではなく意図的に1日1回にしていますというオーラで対応されます。ひい。
オメプラゾール注射剤は前後にフラッシュすることが多いです。配合変化が起こりますからね。
最後に余談ですが、平成30年に名古屋大学がNatureに「Crystal structures of the gastric proton pump」というタイトルでプロトンポンプの構造に関する論文を出していますね。論文にもありますが、細胞内と胃の内部のpH差が6ユニットにあたり、プロトン濃度に換算すると10^6倍の差と考えるとこの差を自然と生み出せる人間ってすごいですよね。ボノプラザンで実験していますが、ボノプラザンは胃プロトンポンプのイオンの通り道にすっぽりとはまり込み、これをブロックすることで活性を阻害しているらしいです。
pH1という環境を作り出す仕組みもすげえって感じですね。グルタミン酸のような酸性アミノ酸からプロトンが離れることができるのはpH3~4程度の溶液までらしいですが、胃プロトンポンプのプロトン結合部位では、異常近接した2つのグルタミン酸に対して正電荷を帯びたリジンの相互作用によりpHに関係なくプロトンが放出されpH1という環境を生み出しているらしいです。
今日は疲れたのでおしまいです。