イメンドについて
最近は勉強さぼり気味ですが、今日はイメンドについて勉強します。
抗がん剤治療の際、大抵の患者が制吐剤を用います。その制吐剤のうちの一つがイメンド®(アプレピタント)です。
制吐療法診療ガイドラインにも記載があるが、イメンドは「高度リスクの抗がん薬による遅発性嘔吐に対しては,NK1受容体拮抗薬アプレピタントとデキサメタゾンを併用」と記載されており、「中等度リスクの抗がん薬による遅発性嘔吐に対しては,デキサメタゾンを単独で使用する。症例に応じてアプレピタントとデキサメタゾンを併用,もしくは5-HT3受容体拮抗薬,アプレピタントを単独で使用」、「カルボプラチン(AUC≧4)に対しては高度リスクの抗がん薬に準じて,アプレピタントとデキサメタゾンを併用」との記載もあります。
急性嘔吐についてもほとんど同じ記載があります。
リスク分類については各自で調べていただきたいのですが、添付文書にも記載されているようにシスプラチンなどが高リスクに分類されます。
今回はそんなイメンドの相互作用を中心に勉強していきます。
イメンドは添付文書にも記載がありますが、CYP3A4の阻害・誘導作用およびCYP2C9の誘導作用を有するため、CYP3A4の阻害薬および誘導薬、CYP3A4基質薬、CYP2C9の基質薬との相互作用に注意が必要です。
まず上述したガイドラインでも推奨されているデキサメタゾンとの相互作用についてです。添付文書にも記載がありますが、CYP3A4で代謝されるデキサメタゾンはイメンドと併用することによりAUCが約2倍上昇します。基本的には併用を加味してレジメンが作られていると思うので気にする必要はないと思うのですが、患者の状態によってイメンドを追加する場合は注意が必要になります。
デキサメタゾン以外でもCYP3A4基質薬で治療域の狭いシクロスポリンやタクロリムス、血中濃度依存的に毒性が増強しやすい抗がん剤(イマチニブ、ドセタキセル、イブルチニブ、ダサチニブ等)との併用の際にも注意が必要になります。
次にCYP2C9基質薬との相互作用についてですが、CYP2C9と言えばワルファリンですよね。イメンドのCYP2C9誘導作用によりワルファリンの血中濃度が低下し、効果を減弱する可能性があります。
添付文書にも「長期ワルファリン療法を施行している患者には、がん化学療法の各コースにおける本剤処方の開始から2週間、特に7日目から10日目には、患者の血液凝固状態に関して綿密なモニタリングを行うこと」と記載があります。
ワルファリンは光学異性体の等量混合物(ラセミ体)です。RSを比較するとS体のほうが約5倍の抗凝固作用を有しており、S-ワルファリンはほぼCYP2C9のみで代謝されます。
ワルファリンとイメンドの併用に関する後ろ向き調査の論文によると、PT-INR平均値をワルファリン平均投与量で除したwarfarin sensitivity index(WSI)を用いて評価した結果、ワルファリン服用中患者にイメンドを投与した際、投与後2週目にワルファリンの作用減弱が現れる可能性が示唆されており、イメンド投与後1週目はWSIの有意な上昇を示し、抗がん剤を含めたイメンド以外の影響が考えられるとのことでした。
いずれにせよ、ワルファリン服用中の患者にイメンドを投与する場合はしっかりとモニタリングすることが大事だと思います。
イメンドの構造式は以下の通りです。
あれ?左の方にトリアゾール基っぽいのある?この構造があるならCYPを阻害するのも納得かなあ。何回も言ってる気がするけど、化学や物理に強くなりたいよ。
ちなみにイメンドは経口薬、プロイメンドは注射薬であり、後者はイメンドをプロドラッグ化したもので初日に投与して終わりの製剤となります。両者はたしか有効性に差はなかったと思うので、どちらを用いてもよさそうです。プロイメンドの単回投与の場合、血中濃度推移では、制吐効果を発現するとされる血中濃度を投与開始72時間後に下回ることが報告されている一方で遅発期においてもイメンドに負けず劣らずの成績だったという報告もどこかで見かけたので、本当にどっちでもよさそうと個人的には思います。
上記の内容も踏まえると、イメンドの2日目以降は午前中に服用っていう記載も臨床試験で設定していた服用方法なだけで、もしも医師が午後の服用でもいいですか?って聞いてきたら、理由次第では午前にこだわる必要もないのかなあと個人的に思ってます。まあ上の話はプロイメンドだけど。
あとプロイメンドは乳酸リンゲル液等、2価陽イオン(Ca2+、Mg2+等)を含む溶液で、配合変化を起こすことが確認されているので、混合しないようにしましょう。
アプレピタントの副作用で吃逆が特徴的なのもお忘れなく。
薬剤師歴浅いし書籍などで読んだりしただけで実臨床わかってなくて自信ないので「個人的に思う」を連発しております。
【参考文献】
1)各添付文書
2)Int J Clin Pharm. 2014 Dec;36(6):1134-7.
3)制吐療法診療ガイドライン