仕事力アップ!地方公務員が身につけたいこと:ベテラン職員も若手へのリスペクトが必要
公務員は「年功序列」が基本なので、年上の職員が上司となることがほとんどです。新卒一括採用であれば、年上の職員は経験も豊富なことになり、経験が豊富であれば仕事のスキルも高いと考えられるので、年功序列は経験が豊富で仕事のスキルの高い職員が上司になる、ということです。こうした考え方にも一定の合理性があると思います。また、学校でも先輩・後輩のような年齢による上下関係があったので、仕事でも年功序列がチームとしての調和を自然にもたらすのかもしれません。
このように、公務員の年功序列は組織のパフォーマンスを発揮するために、それなりの役割を果たしてきたと思います。しかし、今やその考え方が必ずしも正しいとは思いません。まず、若い人は年功序列を快く思っていないようです。私も学生に公務員が年功序列であることを説明するのですが、学生の反応は好ましくありません。むしろ、実力主義であることを望んでいるように思います。もちろん、新卒でいきなり高い実力を持っているわけではありませんが、若いからこその吸収力や成長力を生かして、あっという間に力を付けられる特権を持っています。それが少しずつ積み重なってくれば、ベテラン職員の実力を上回る可能性も十分にあると思います。
将棋の藤井聡太棋士が7冠を獲得して、大きな話題になっています。これはかつて羽生善治9段が成し遂げた記録以来で、逆に羽生棋士は現在、しばらくタイトルが獲得できない状況になっています。これを公務員に例えれば、藤井棋士は新卒公務員の年齢であるのに対し、羽生棋士の年齢は課長クラスといったところでしょう。これはただの偶然ですが、羽生棋士は私と同じ年齢です。そして現在、私の同期の多くが課長になっているので、藤井棋士と羽生棋士の関係は公務員では新卒と課長に例えられるでしょう。実力では圧倒的に藤井棋士の方が上で、羽生棋士も藤井棋士から学び、実力を上げていきたいといった趣旨の発言をしています。実力主義の世界では若手の方が圧倒的に有利ということを象徴的に表していると思います。
公務員の実力は、経験だけで蓄積されていくものではなくなりつつあります。前例踏襲が当たり前の時代には、経験は前例そのものですから年功序列は機能していたかもしれません。しかし、特に変化の激しい現在では経験の重要性が低下する一方で、新しい動きを見極め将来へのビジョンを描けることが重要になってきます。そうした時代では、ベテランの経験よりも若手の吸収力やビジョン構築力の方が優位になり、それを発揮できるかどうかが地方自治体の命運を左右する、とまで言えるかもしれません。したがって、年功序列は今や必ずしも合理的な制度とは言えなくなりつつあるのではないか、と思います。
今のところ公務員は年功序列ですが、実力主義に転換すれば若手が課長に昇進することもあるかもしれません。今すぐそのようなことは起こらないかもしれませんが、それでベテランが安心してよい、ということではありません。「若手の方が実力を持っている」というリスペクトを、ベテラン職員が持つことが大切だと思います。変化のなかで地域住民のために質の高いサービスを提供するためには、それに最もふさわしい職員が活躍することが重要なので、ポストにかかわらず実力で職員にさまざまな役割を担ってもらう必要があります。そのためには、大前提としてベテラン職員が若手職員にリスペクトすることが大切です。
一方、若手職員も実力で上回るからといって、偉そうなふるまいをしたりベテラン職員を下に見ることがあってもいけません。藤井棋士も、師匠に対するリスペクトを当然持っていると思います。実力では師匠を上回っていたとしても、自分を成長させてくれたこと、自分に愛情をかけてくれたことに対する感謝やリスペクトが当然あるはずです。親や周囲に対しても同様だと思います。つまり、ベテランは若手の実力に対するリスペクトを持ち、若手もまたベテランの愛情に対するリスペクトを持って、相互にリスペクトをしながら仕事をしていくことが、これから大切になってくるのではないかと思います。