地方公務員が考えるべきこと 第7回 災害備品としてのシェアサイクル・電動キックボードの可能性について一言
10月7日に東京で震度5強と比較的強い地震が発生した。我が家は子ども部屋の棚にあったものが落下してきたくらいで特に大きな被害はなかったが、首都直下地震や南海トラフ地震の発生が確実視されているから、こうした地震が起こるたびに「いよいよ来たか」「今回もこれで済んでホッとした」という気持ちになる。
しかし、やはり今回は震度5強であったため、電車が止まったり帰宅困難者が発生したりと、10年前の東日本大震災以来とも言える光景が広がった。その意味では、震災の教訓が生かされていないとも言えるし、依然として災害への備えが十分ではないことが露呈したとも言える(私自身も決して例外ではない)。
ただし、震災から現在に至るまで、災害の面で新たな状況がいくつか出てきている。ここではシェアサイクル・電動キックボードの可能性を取りあげることにしたい。
「シェアリング・エコノミー」が注目されているなかで、シェアサイクルは都内でもセブンイレブンの駐輪場に何台か設置されているし、自治体でも運営されている。地方でも、観光客の身近な足として使われており、全国的にシェアサイクルは普及し、身近な存在になった。これは10年前の震災の時にはなかったもので、今回の地震でも帰宅困難者の足としても活用されたという。
このことがニュースで取りあげられた時、私は「災害備品としてシェアサイクルが大いに使える」と感じた。災害は、いつ、どこで起こるか分からない。自宅に十分な備えがあったとしても、通勤・通学やレジャーなどで出かけた時に災害が発生したら、それが役に立たない。早く自宅に戻るためには、自動車が渋滞していても移動が容易な自転車は重宝するだろう(もちろん交通安全には気をつけなければならない)。自治体は備蓄品として食料や毛布などを用意しているが、帰宅困難者の発生を防ぐために自転車を備えておくことも1つの災害対策となるのではないだろうか。
ただし、ネックもいろいろある。例えば、ほとんどの場合は市区町村をまたいでの移動となるため、自転車の備蓄が住民に対するサービスではなくなってしまう点が挙げられるであろう。それは「お互い様」として行うしかないのではないか。また、自転車と保管スペースの問題がある。前者は放置自転車を使えばある程度確保できるように思われるが、後者は容易ではない。東京一極集中の是正に災害対応の側面があることから、一定の強制力も用いてスペースを確保するしかないかもしれない。
もう1つのネックは、在宅勤務の普及ではないか。コロナ禍の影響で在宅勤務が一定の普及を見せている(大学の講義も全面対面には至っていない)。したがって、自宅で災害が発生した際には、自宅の備えを活用することができるので、移動先で災害が発生するよりも条件は一般的に良いであろう。逆に言えば、自宅での備えをよりしっかりしておかなければならない。しかし、在宅勤務の普及によって同時に東京郊外に居住を移して週に数日出勤する人々も増えてきたことから、帰宅困難者の数は減っても、たまたま出勤した時には自宅になかなか帰れないという意味で帰宅の困難度は高まるかもしれない。その時、自転車で帰宅することは決して容易ではない。
ここで期待されるのは、電動キックボードである。電動キックボードは規制緩和によって、ようやく移動の足として普及への足がかりが整いつつある。機種によるが数十キロメートルの走行が可能なものもあるから、かなりの距離を移動可能だ。私の勤め先(東洋大学白山キャンパス)から大宮駅までの距離でも25キロメートルだから、おそらく問題ないだろう。
電動キックボードの価格は10万円程度である。電動アシスト付き自転車とほぼ変わらない(むしろ安い)し、普通の自転車の3倍程度である。もちろん安くはないが、決して高すぎるわけではないし、普及が進めばさらに安くなるかもしれない。
シェアリングの時代、そして新しい生活様式の時代への災害対応策として、シェアサイクルや電動キックボードの可能性に注目したい。