地域分析の基礎「はじめに」
このマガジンでは、地域政策を企画・立案するうえで不可欠な地域分析の注意点について、私の地方公務員としての経験と、経済学や財政学をベースとした地域政策の研究・教育を行ってきた経験の両方を活かして、現役の地方公務員を対象に易しく紹介することにします。
このマガジンの特徴は、上に述べたことの中にあります。それは「地方公務員を対象に」「地域分析の注意点について」紹介する、という2点です。
マガジンの特徴①地方公務員向け
まず、地方公務員を対象にしたことについて説明します。もちろん地域分析は地方公務員だけでなく、民間企業の方や地域住民、あるいは学生なども実際に行っていますし、行う必要があります。したがって、本マガジンが地方公務員以外の人には役に立たないわけではないのですが、私は特に地方公務員に地域分析を身につけてほしいと思っています。地方公務員こそ地域分析を積極的に行わなければいけないと考えているからです。
私自身、地方公務員としての経験と、大学教員として地方公務員と関わってきた経験を持っていますが、地域分析を地方公務員が自ら行うことは意外に少ないのではないでしょうか。もちろん地方公務員は地域政策を企画・立案・実行していますが、その裏づけとなっているのは地域分析に基づく地域の実態というよりも、「国の制度・支援策があるから」「他の地域でやっているから」といったものが多いように感じます。また、地域政策を行う際には「総合計画」などさまざまな計画を策定し、ある程度の地域分析が行われています。印象としては、客観的な分析に基づいて計画ができているように見えるのです。しかし、こうした分析は計画策定に委託されたコンサル会社などが行うケースが多く、公務員自身が分析を行うことはけっして多くありません。したがって、地域分析によって地域政策と地域分析が必ずしも十分に連動していない、というのが私の実感です。
これからの地域政策は、地域のさまざまな個別実情に応じて、地域の側から主体的に企画・立案・実行していかなければなりません。そのためには、地方公務員が自ら地域分析をする力量を持つ必要があると思います。そこで、このマガジンは地方公務員向けという特徴を持たせることにしました(もちろん地方公務員以外の方にも役に立つと思います)。
マガジンの特徴②分析の方法よりも注意点を重視
もう1つの特徴は、地域分析の方法そのものよりも注意点を示すということです。実際の分析方法について紹介した書籍は、多く出版されています。非常に易しい入門書から、きわめて高度な方法を紹介した専門書まで、多種多様です。学生向けのテキストブックなどもあります。分析方法はこれらの書籍で網羅されているので、ぜひ役立てていただきたいと思います。
しかし、地域分析は何も考えずにいきなり始めても上手くいきません。むしろ、分析する前の「準備」や分析をした後の「考察」が非常に重要になります。これを地域分析の注意点としてしっかり把握していなければ、いくら高度な分析をしても、せっかく出てきた結果を有効に活かせなくなってしまうのです。医療の世界でも、数億円もするような高性能の機器を使って検査したのに診断を間違えてしまえば、患者の病気は治るどころか命を落としてしまうかもしれません。「地方消滅」の危機が叫ばれていますが、存続がかかっている状態の地域を分析する際にも、医療の現場と同じような危険性があるのです。
地域分析における準備や考察とは、「自分がその地域に対してどのような思いを持っているのか」「どのような地域にしたいと思っているのか」といった思いや、地域を見る眼が必要になります。医療で医者の情熱や経験が重要になることと同じでしょう。こうした部分を地域分析の要素として分かりやすく解説する書籍は少ないと思います。実際には、さまざまな分野の書籍や情報からノウハウや知識を集める、あるいは実際に地域政策に関わって成功と失敗の経験を積み重ねる、といったことで養われてくるものです。本マガジンの特徴は、そうした知識と経験をある程度持っている私だからこそ出せるものだと思います。
したがって、分析の方法については本マガジンでも触れる部分はありますが、網羅的に学ぶには他の書籍を読んだ方が良いでしょう。本マガジンは、そうした本と組み合わせて読んだり、分析方法を習得している他の職員と協力して地域分析を行ったりする場合に、役立つと思います。
これからの激動の時代を生き抜くためには、将来を予測する洞察力も大切ですが、過去と現在を正確に捉える分析力も必要だと思います。地域分析は後者の力を高めるものです。本マガジンを通じて、多くの地方公務員の方が地域分析を行い、より質の高い地域政策の企画・立案・実行につなげていただきたいと思います。
2022年1月ごろまで定期的に更新する予定です。よろしくお願いします。
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