地域分析の基礎 第10回 将来推計人口を使いこなす
今回は、将来推計人口に着目したいと思います。将来推計人口は、地方創生における最重要の事項です。地方自治体がこれからも持続的な活動が行えるかどうかは、将来の人口規模によると考えられているからです。そこで、地方創生では国や地方自治体が『人口ビジョン』という長期的な人口見通しを作成し、2040年や2060年における人口の規模を示しています。現状と比較すればさすがに人口を増加させることはできませんが、何も対策を打たずに減少しすぎないようにしたいという姿勢が、国や大半の自治体の人口ビジョンから読み取ることができます。
自治体は、人口ビジョンにおける見通しを踏まえて、子育て支援などの自然増減対策と企業誘致などの社会増減対策を行い、出生率の向上と社会増減の改善を進めています。国の地方創生も第2期を迎え、今のところ主だった成果は出ていないようですが、引き続き対策を進めるとともに新型コロナやデジタル化などの新たな動向を取り込み、さらに効果を模索しています。
将来推計人口は、国立社会保障・人口問題研究所が国勢調査の結果に基づいて行っているものです。国勢調査の最新結果は2015年のもの(2020年の結果は速報値が公表されているのみで、まもなく確定値が公開予定)なので、将来推計人口の数値も2015年の国勢調査結果をに基づいています。過去10年間の人口動向を踏まえ、2045年までの推計値が公表されています。地方自治体はこの数値を軸にして、これよりも人口を多くするためにさまざまな地方創生の政策を行っています。それらの政策が効果を発揮した結果として、人口ビジョンに描かれた見通しが実現することになります。つまり、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口は何も対策を打たなかった場合の見通しとして捉えられていると言えるでしょう。
人口ビジョンに示された見通しは、出生率が何年までにどの程度まで向上する、あるいは社会増減が何年までにどの程度改善するといった前提に基づいて算出しています。多くの自治体は2030年までに出生率を1.8(希望出生率)まで引き上げ、社会増減を均衡(流入と流出がバランスの取れている状態)を想定しています。そうすると、今後人口を大きく減らすことなくある程度の減少に抑えることができ、地域の活動も持続可能になる、と考えられているわけです。
端的に言えば、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口は「乗り越えるべき壁」として活用されているように思います。もちろんそうした使いかたもアリだとは思いますが、残念なのはそういう使われ方しかしていない、ということです。もっと自治体の現状を的確に捉え、すぐに取り組むべきことは何かを考えるための題材としても将来推計人口は使えるのではないかと思います。そこで、今回は2つの方法を提案したいと思います。
1つは、遠い先の将来推計人口ではなく目の前の将来推計人口に着目することです。少し分かりにくいので、1つの例を使って説明します。現在、国勢調査の最新の数値は2015年のデータです。将来推計人口はその結果に基づいて、2020年から2045年まで5年ごとに示しています。ただし、将来推計人口で着目するのは最新の数値ではなく、その前の数値です。つまり、2010年の国勢調査の結果に基づいて2015年から2040年までの推計人口を示したものです。ここには、2015年の推計人口が出ているので、この2015年の推計人口が実際の人口、つまり最新の国勢調査の結果とどのくらい合っているのかを見ることができるのです。
ここで、最新の国勢調査結果(2015年)の値をA、2010年の国勢調査結果に基づいた2015年の将来推計人口の値をBとします。A>Bならば推計を上回ったことになりますので、すでに良い状態にあることになります(おそらく人口は減っているけれども、「予想よりも減りすぎていない」という意味で)。逆にA<Bならば推計を下回ったことになるので、良くない状態にあることになります(人口が減っているうえに、「予想よりも減り方が激しい」という意味で)。前者であればこのまま政策を続けていけば(あるいはさらに拡大すれば)良いと判断できるでしょうし、後者であれば何か新たな対策を打たなければならないことになるでしょう。このように、将来推計人口は遥か先のことを見通すためにあるだけでなく、現在どのような状態にあるのかを知るためのデータとしても有効ではないかと思います。
ちなみに、2015年の国勢調査結果は、出生率の改善により以前の推計を上回るところが多くなっています。これは、全国的な傾向なので、望ましい結果と言えるかもしれません。しかし、それ以降出生率が低下してしまったので、まもなく公開される2020年の国勢調査結果は推計を下回るケースが多いかもしれません。
もう1つの方法は、将来推計人口の結果を前と後で比較することです。 2010年の国勢調査結果に基づく将来推計人口は2015年から2040年までの数値が示され、2015年の国勢調査結果に基づく将来推計人口は2020年から2045年までの数値が示されています。つまり、2020年から2040年までの将来推計人口はいずれにも示されているので、これを比較してみるのです。
ここで、2040年の推計人口を例にしましょう。2015年の国勢調査結果に基づく(つまり、新しい方の)推計の数値をA、2010年の国勢調査結果に基づく(つまり、古い方の)推計の値をBとします。A>Bならば推計が上方修正されたことになりますので、これから状態が改善されていくことが期待されます。逆にA<Bならば推計が下方修正されたことになるので、これから状態がさらに悪化していくことが懸念されます。このように、将来推計人口を数値として捉えるだけでなく、その変化を捉えることで、現在の状態が将来どのような影響を与えるのかを知るデータとしても有効ではないかと思います。
まもなく、国勢調査の2020年確定値が公表されます。この結果を踏まえた将来推計人口の公表はもう少し先になると思いますが、まずは確定値に注目し、すでに公表されている2020年の将来推計人口とどのような差があったのかを捉えてみてはいかがでしょうか。