初めてのイノシシ解体
解体前の心構え
猟師になった夫と初となる獲物は雄の猪だった。
ビギナーズラックで直ぐに掛かる人もいれば、我々のように1か月近く経って、ようやくの人もいると思う。いずれにせよ、いつ獲物が掛かっても良いように心構えておく必要がある。
解体の手順、注意点の勉強。これを怠ると、いざという時に何も出来ない。そのため、免許を持つ夫はイメトレをしながら繰り返し学び、その日に備えた。一方私は、今期は捕れないとあぐらをかいていた。
解体への恐怖心
四つ足動物の解体。こんな物騒なことは、大抵の人はやった事がないはずだ。もちろん私達も経験がないため、自分に果たして出来るのか?という疑問が生じる。
①可哀そうという感情
犬好きの我々は、四つ足動物に対して、ひとしおに愛着がある。なので、実際目の前にしたら可哀そうと思うのではないか?と不安だった。
しかし、実際自分たちで殺めると命を無駄にすることの方が可哀そうに感じた。つまり、ゴミにしてしまうなら、きちんと食べてあげようという考えしか浮かばなかった。
②グロテスクに対応できるのか?
解体前は、内臓や血が怖いと思っていた。グロテスクなんじゃないか?とさえ思った。夫が初めて腹をナイフで裂いた時、腸がベロンと出てきたが、幸い腸を傷つけずに済んだので、便をまき散らすこともなく綺麗に内臓を取り出せた。それもあって、特にグロテスクに感じることもなかった。
しかし、これは私がたまたま魚屋で働いていた経験があり、マグロやブリの解体を日々見ていたせいかもしれない。内臓慣れしていたので、むしろ美味しそうだなと思ったほど。魚屋で働かずとも、料理好きで魚釣りをする夫も耐性があり平気だったようだ。
解体の手順と学び方
解体の手順は、ざっというと「血抜き、洗浄、内臓出し、皮剥ぎ、分割」になる。血ぬき、内臓出しは、時間との勝負もあって、近くの綺麗な川で行ったのだが、洗浄、皮剥ぎ、分割は私の実家の庭先で行った。
これらの勉強は、体験会で解体を学ぶ機会があった事が大きく、あとはyoutubeやネット、書籍を参考にしながら手探りで行った。多分、経験が一番の学びになると思うので、最初は見よう見まねで問題ない。
理想と現実は違うもので、いくら勉強したところで、個体によって上手く行かない事もある。そう自分たちは言い聞かせた。皮剥ぎは、案外やってみるとメリメリと剥がせるもので面白かった。
しかし、体験会で先輩ハンターも言っていたが、骨の音は嫌なものだ。手首、足首、頭はゴリゴリっと関節を回して外さなければいけないので、骨の音が生々しい。こればっかりは、私には向いていないと思い、夫に任せることにした。怪力の持ち主である夫は、いとも簡単にバキバキと外していった。
解体で怖かったこと
初めての解体で一番怖かったことは、「ダニ」の存在だ。
話には聞いていたが、我々が捕らえた猪の腹にも、沢山のダニが付いていた。吸血ダニでお馴染みの「マダニ」も腹をパンパンにさせ付いていたので、庭先で逃げられないか不安だった。皮を剥いだ後、すぐにビニール袋に入れて口を閉じたところ、それまで動かなかったダニたちが一斉に動きだしたので怖かった。
解体の時は、手袋をしていたし気を付けていたのだが、いつの間にか夫の腕には赤い何かに刺された跡が・・・。不安だったが、1週間経っても熱などは出なかったので一安心した。しかし、反省点なので次回は、より気を付けて解体をしようと話し合った。
夢中で解体した結果
とにかく無我夢中で夫と猪を解体した。スーパーなどで1kgの肉を持った事があるだろうか?とにかく肉の塊が重い。足一本持つのも大変なのだ。そして、来季までに冷凍庫を買おうと思っていたので、我が家には入りきらない猪肉。
一旦、実家の米の貯蔵用冷蔵庫を低温にして保管することにした。こればかりは、農家で助かったと思った。大腿部の塊肉を家庭用冷蔵庫で仕舞えるはずもなく、翌日冷凍庫に入るよう、ひたすら解体しまくった。
おかげで途中から、肉片だらけになり、どの部位かわからなくなった。ヒレ肉は1頭につき2枚しか取れないはずなのに、ジップロックには4つもヒレと書かれていた。