押見修造・漫画版「悪の華」はアニメ版を前半だけ、その後は実写映画版をお薦めします。思春期から大人になるまで心のトンネルをどう抜けるか、どのくらいの毒を飲めば免疫ができるか、そういうテーマとして描かれている。

ボードレールの 『悪の華』(堀口大学訳・新潮文庫)は、文学青年なら一度は通過儀礼として、突き刺さるような言葉の群れを容赦なく浴びて仕舞う、そういう有名なフランスの古典文学です。
 その『悪の華』をヒントに同名のタイトルで押見修造という漫画家が2009年に「別冊少年マガジン」に連載を開始し、その後コミックが累計300万部も売れた。

 ストーリーは、田舎の山に囲まれた袋小路のような出口のない小都市、新しい産業があるわけもなく電線が垂れ下がり看板も色褪せている。衰退する日本の典型的な地方都市の中学生が主人公だ。その中学生の愛読書が『悪の華』なのである。
 主人公は行き場のない錆びた日常世界には必ず「向こう側」があるはずだと考えるが、どこにも脱出ができず苛立ちを募らせ、たまたま清純な同級生女子の体育着を盗んでしまい、という事件から思わぬ展開が待ち受けている…。
 僕はふだんアニメは見ないが、蜷川有紀が客員教授をしている大正大学の学生とたまたまアニメ版『悪の華』の話題になったというのでどんなものかアマプラにあるのでこの連休に観たら、なかなかよくできていて感心したのだ。

 アニメ版はロトスコープという、実写の動きをトレースすることでリアルな画像が作られる。ロストコープのメリットは、実写映像を1枚ずつトレースする技法であるため、いわゆる子どもっぽアニメキャラではない。写真2枚目の画像。
 ところがリアル過ぎて従来のアニメファンには評判が悪く1シーズン13回で終了になってしまった。シーズン2がないので物語は半分でしかない。

 そこで写真3枚目、2019年製作の映画版を鑑賞した。
 皆さんには、アニメ版を3回か4回ぐらい見たうえで(せいぜい1時間半か2時間)、ロトスコープを味わい、映画版(2時間7分)をご覧になるようお薦めしたい。

 押見修造版『悪の華』は、思春期から大学生時代にこころのトンネルをどう抜けるか、どのくらいの毒を飲めば免疫ができるか、そういうテーマとして描かれているから、漫画でありながらも芥川賞に推してもよいような作品です。

 なお、僕とボードレールの最近の出会いは、ルオーの版画「取り返し得ぬもの」を介してでした。noteを参照してください。以下、URL
https://note.com/inosenaoki/n/n9bef2b0e4bea

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