音楽と凡人#15 "くだまき本舗"
ギタリストとして加入していたバンドを脱退した私はある男に連絡をとっていた。当時の私は二十歳前後であったがその時ですらすでに10年以上の付き合いがあった。小学校1年からの友達である。きっちゃんとは以前一度別のバンドを組んで解散し疎遠になっていたが、私はしつこく連絡を取り続け、なんとか普通の関係に戻った。そして時が過ぎあろうことか私はまた新たなバンドの話を持ちかけたのである。
「今度は俺がボーカルでやりたいねん」
私は人前で歌ったことがないどころか、友達とカラオケもほとんど行ったことがなかった。彼は特に驚きもせず、またこいつの新しい遊びが始まったのだろうというような調子ですんなりと受け入れた。彼の目に映る私はミュージシャンを目指す男でもバンドマンでもなく、地元のよくふざけている友達であっただろう。彼は『本舗』がついたバンド名を望み、私はその上に『くだまき』をつけた。
『くだまき本舗』はアコースティックギターボーカルとドラマーという奇妙な2ピースバンドとしてその産声をあげた。