【水平社宣言を読む2022】宣言
宣 言
全國に散在する吾が特殊部落民よ團結せよ。
長い間虐(いじ)められて來(き)た兄弟よ、過去半世紀間に種々(しゅじゅ)なる方法と、多くの人々とによつてなされた吾等(われら)の爲(た)めの運動が、何等(なんら)の有難い効果を齎(もた)らさなかった事實(じじつ)は、夫等(それら)のすべてが吾々によつて、又他(た)の人々によつて毎(つね)に人間を冒瀆(ぼうとく)されてゐた罰(ばち)であつたのだ。そしてこれ等の人間を勦(いたわ)るかの如き運動は、かへつて多くの兄弟を堕落させた事を想へば、此際吾等の中(うち)より人間を尊敬する事によつて自ら解放せんとする者の集團(しゅうだん)運動を起せるは、寧(むし)ろ必然である。
兄弟よ、 吾々の祖先は自由、平等の渇仰者(かつこうしゃ)であり、實行者(じっこうしゃ)であつた。陋劣(ろうれつ)なる階級政策の犠牲者であり男らしき産業的殉敎者(じゅんきょうしゃ)であつたのだ。ケモノの皮剥(かわは)ぐ報酬として、生々しき人間の皮を剥取られ、ケモノの心臓を裂く代價(たいか)として、暖い人間の心臓を引裂かれ、そこへ下らない嘲笑(ちょうしょう)の唾(つば)まで吐きかけられた呪はれの夜(よ)の惡夢のうちにも、なほ誇(ほこ)り得(う)る人間の血は、涸(か)れずにあつた。そうだ、そして吾々は、この血を享(う)けて人間が神にかわらうとする時代にあうたのだ。犠牲者がその烙印(らくいん)を投げ返す時が來たのだ。殉敎(じゅんきょう)者が、その荊冠(けいかん)を祝福される時が來たのだ。
吾々がエタ(○○)である事を誇(ほこ)り得(う)る時が來たのだ。
吾々は、かならず卑屈なる言葉と怯懦(きょうだ)なる行爲によつて、祖先を辱(はずか)しめ、人間を冒瀆してはならぬ。そうして人の世の冷たさが、何(ど)んなに冷たいか、人間を勦(いた)はる事が何(な)んであるかをよく知つてゐる吾々は、心から人生の熱と光を願求禮讃(がんぐらいさん)するものである。
水平社は、かくして生れた。
人の世に熱あれ、人間(にんげん)に光あれ。
大正11年3月 水 平 社
*崇仁小学校所蔵「綱領・宣言」を基に、旧字体の一部を新字体にし、()内で示した振り仮名等は、『水平』第1巻第1号「創立大会号」を参照した。