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『話題にしてもらう技術 90.5%の会社が知らないPRのコツ』ワーキングバックワーズ法(目標設定)

 新商品開発の目標設定において、ワーキングバックワーズ法という方法がある。 

 新しいプロジェクトが立ち上げられたときに、新サービスや新製品を一般向けに発表するためのプレスリリースを真っ先に作成するプロセスを指す。そうなると、開発チームはその新製品が顧客にもたらすメリットにフォーカスせざるを得なくなり、顧客を起点に考えるようになるのだ。
 企業では通常、プレスリリースは製品開発の最終段階、プロダクトチームや技術チームが開発を終えてから、広報担当者が作成するものだが、ワーキングバックワーズ法は、顧客がメリットを実現できる製品やサービスを開発しなくてはならないわけだ。そのプレスリリースの原案には「よくある質問」も添付され、消費者やメディアが質問してきそうな価格に関する質問や、克服すべき技術的な問題についての説明などが列記される。

 ソニーの創業者である盛田昭夫さんは、このことを「ターゲット」と呼んでいたが、いずれも同じ意味を持つ。

 そういう観点から、プレスリリースについて学ぼうと本書を読んでみた。

 最近「〜は9割」という本が多いので、本書のサブタイトルの「90.5%」はその変化球かと思っていた。プレスリリース配信サービスの上位4社(バリュープレス=71,882社、PRTIMES=65,000社、アットプレス=22,000社、ドリームニュース社=10,000社)を合計すると、16万8,882社となり、その数を企業社数177万社で割ると、9.5%になるため、「90.5%がPRのコツを知らない」としているようだ。

 プレスリリースには、以下の骨格がある。

1)タイトル(目にとまる。釣りタイトルは逆効果)
2)1段落目は、いちばん大事な事実だけ書く
3)2段落目は、なぜこれが注目スべき情報かを伝える
4)3段落目は、これは本当に大事な内容とダメ押し

 PRを成功させるポイントとして、プレスリリースなどの「点」で終わるものでなく、新製品発表に関する情報の露出を最大化するための一連の施策とし、「大口顧客をXXまでにYY件クローズする」というゴールを設定することが重要だという。そうなると、ワーキングバックワーズ法の目的とPRの目的を一致させることが、企業の競争力となることは間違いなさそうだ。

 広報活動そのものを新サービスや新製品開発の最初のフェーズとし、開発期間中のプロセスでも表(社外)と裏(社内)に分けた上で広報活動が行うこと。そして、広報活動と開発プロセスが表裏一体のものとして仕組み化できるかどうか。つまり、これらのパラダイムシフトが企業競争力に直結することになる。

 本書を読んでいて最も気になったのは、リスクマネジメントにおけるクライシス・マネジメントについての考察が、SNSなどの炎上に限られていることだ。企業にとって、新商品によって、人体に影響を及ぼした、事故につながった、環境を破壊してしまった、IT業界ならバグで全体が止まってしまった、このようなときに、どう伝えるべきかなどの広報活動も、商品の売上に影響するリスクマネジメントとして重要になる。つまり、PR活動の必要条件を商品の宣伝だとすると、商品やサービスからのマイナスの事態をも想定したものでなければ、十分条件を満たさないということになる。

 もう少し言及すると、PRとは、例えば、海外で社員が人質になってしまったときの広報活動、ESG投資における「S」の地域貢献の広報活動なども含まれる。PRのパブリックとは、既存・潜在的顧客、従業員、経営者、投資家、メディア、政府、サプライヤー、オピニオン形成者と広く、ステークホルダーにとどまらないのである。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。