『ユーザーイノベーション: 消費者から始まるものづくりの未来』グローバル化時代には供給側の企業内のイノベーションの民主化も必要(技術の歴史)
通常イノベーションは供給側が起こすものという固定概念があるが、消費者によるイノベーションが、他の消費者に普及し、メーカーが参入するケースもある。本書ではそれをユーザーイノベーションと呼んでいる。最初の実証者はMITのエリック・フォン・ヒッペル教授で、「イノベーションの民主化」という切り口でまとめているようだ。
本書にはユーザーイノベーションを理解させるため、次のような例が紹介されている。一部を紹介しよう。
セブンイレブンのスキャナ
1990年までは、セブンイレブンが注文通りに商品が入荷されているかどうかを確認する術が手作業だった。検品用のスキャナーを開発して商品についているバーコードをスキャンする仕組みを作ることでこれを自動化した。当初開発を担当したメーカー側の日本電気とデンソーにとっては思いもよらないものだった。
マウンテンバイク
1970年代に米国の若いサイクリング愛好家が整備されていないオフロードを走るために開発したバイク用フレームとバルーンタイヤ、オートバイ用の強力ブレーキを作った自転車がマウンテンバイクとなった。これらはユーザーイノベーションの例だ。
食洗機
ユーザーイノベーションとしてユーザーそのものが起業するという方法もある。例えば、食洗機はお手伝いさんが大切な陶器を割ってしまうことに耐えきれず、ジョセフィーヌ・コクランという女性が開発・起業して普及したものだ。
ヤフー
ヤフーもデビット・フィイロとジェリー・ヤングが自らのニードで開発・起業している。
また、消費者が物理的に改造、改変することなく用途だけを変更している例も多く見られる。
これまでイノベーションの供給側の企業の50%以上が、新商品のコンセプトをテストする際、フォーカスグループインタビュー(少数のターゲットユーザーに対して対面型のインタビューを行う調査)などの調査を行ってきた。25%以上の企業がこれ以外にテストマーケティングとコンセプトテストを用いているにすぎなかった。多くの企業は、新商品の開発に着手する際に必ずしも潜在顧客の調査を行っているわけではないという。
イノベーションを供給する企業側の製品開発担当者は、実は革新的な消費者に出会っていない。あるいは出会っていてもその革新性に気づいていない。革新的な消費者をリードユーザーと呼ばれているが、彼らを製品開発に取り込むことで製品イノベーションを起こすことが可能になる。このリードユーザー法(LUM)は、ユーザーイノベーションは誰もが行っているわけではなく、特定のユーザーが行っている傾向があるという考え方だ。LUMに対してインターネットなどでニード情報や製品案を募集するクラウドソーシングなどの方法もある。
「イノベーションの民主化」というテーマは、供給側の企業内で、製品開発者だけでなく、多様化した社員(ダイバーシティ)が参加することによる成果と、この本にあるようなユーザー自身によるイノベーションの2つの側面があると思うが、イノベーションされたものがグローバル化を必要とする現在、前者についての考察もまとめておく必要があるのではないだろうか。