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『システム工学方法論』環境研究と需要研究をスタートラインに(マスクドニード)
システム・エンジニアリングのパイオニアと呼ばれているアーサー・D・ホールが、1969年に出版した本。この本が面白いのは、環境研究と需要研究があることだ。環境研究とは商品を発売するタイミングの市場環境を研究しておくことを指し、需要研究とはニードを研究することを指す。つまり、システム工学は改善や改革をスタートラインにしているのではなく、ニードをスタートラインとしている。
システムエンジニアリングを司る技術者は、システムエンジニア(システムズエンジニア)と呼ばれている。これはIT業界のSEという呼び名のルーツにあたるものだ。SEと呼ばれる技術者の最大の欠点は、それがシステム工学をルーツにするにも関わらず、スタートラインを要件定義においていることだろう。
つまり、ユーザーからヒアリングした内容を定義し、システム設計書に落とし込んでいくプロセスの中に、環境研究や需要研究からの目標設定やミッション・アナリシスというプロセスがないため、言われたことだけを実装することになってしまうという欠点がある。
DXプロジェクトの成功例が少ない最大の理由は、ユーザーから要件をヒアリングするからだ。
経理業務や販売業務、生産業務という従来行っている仕事を定義するのであれば、ユーザーは的確な要件を語ることはできるのだろうが、今までの業務をトランスフォーメーションし、未知の仕組みを定義することができるユーザーは少ない。つまり、DXを成功させるためには、世の中で求められてはいるが、現在は仮面を被ったニードであるマスクドニードをスタートラインとすることが必要になる。それを実現するための手法がシステム工学で、本書にはその方法論がまとめてある。
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