『ノヴァセン: 〈超知能〉が地球を更新する』宇宙人はいない(環境研究、未来予測)
ジェームズ・ラブロックが99歳のときに書いて、100歳のときに出版された本。しかも、1712年(蒸気機関の発明)にはじまった「アントロポセン」(人新生)が終わろうとしている今、次の地質年代の「ノヴァセン」について語るのが本書だ。驚きの内容だが、人間の能力は死ぬまで上昇することをラブロックは証明している。
まず最初に、ラブロックは宇宙を「ユニバース」とは呼ばず「コスモス」と呼ぶ。「コスモス」は人間が観測し把握することができる宇宙、つまり、人間原理が成立している宇宙を指し、「ユニバース」は観測できないものを含んだ宇宙を指す。その「コスモス」は138億歳。2兆の銀河が存在し、ひとつの銀河に1000億の恒星が存在している。しかし、「コスモス」を観測できる知性を持つ生命体へと進化するには「コスモス」の3分の1である37億年にわたる自然選択が必要だ。もし太陽系の進化が10億年長くかかったら、私たちの存在はない。また、太陽が発する猛烈な熱に対処できるテクノロジーを手にする時間もないだろう。このようなプロセスは何度も起きる可能性はなく、1回限りの奇遇な出来事で、この広い「コスモス」で、それを観測する能力を持つ生物を育むことができたのは地球だけだと断言している。つまり、宇宙人はいないということだ。
全米No1のIQを誇った未来学者ハーマン・カーンは、人類の未来を宇宙への移住だと予測した。これはイーロン・マスクの火星移住構想となったが、全財産の半分を使い極小カプセルを建設し維持するのが精一杯だ。火星のコンディションは、地球上で隕石の衝突で死ぬ方がましだろうと断定している。
これまで太陽の温度はゆっくりと上昇し、生命の進化のプロセスに充分な時間を与えてきたが、もはやこの恒星(太陽)からの熱の放射が大きすぎて、現在の地球の生命体が絶滅したら、新たな生命が誕生することはないだろう。太陽が放出する熱はゆっくりと増えていく。これまでの35億年で太陽の放射熱は20%増えた。これは地球の表面温度を50℃まで上げるのに相当する量だ。ガイアの働きがこれを抑え、地球の表面温度は15℃からプラスマイナス5℃の変動で収まってきたが、地球は年をとっており、ガイアによるレジリエンスは弱まっている。温暖化した地球は脆弱なものだとしている。99歳のラブロックだからこそ分かることだとも言える。
人間が「コスモス」の唯一の理解者である時代は終わった。非有機体的存在(ラブロックはサイボーグと呼んでいる)が、地球を冷涼に保つことで太陽からの熱をブロックし、未来の天変地異から防いでくれる。「ノヴァンセン」とは、テクノロジーを発達させることで、この惑星全体のプロセスや構造に直接介入できるようになった時代を指す。
限界温度は47℃だ。そこに存在することが可能な電子的生命圏の住民は、わたしたちの生命圏と違うエコシステムが形成され、共存する。人類は自らの役割を果たしたのだ、と100歳のラブロックは言う。人間の後継種であるシリコン生物の自己複製機能はどうなるのかなどの疑問はあるが、ガイアの調整機能を補完するテクノロジーが必要なことだけは確かだ。そういう意味で本書は、「アントロポセン」がトーマス・ニューコメンの蒸気機関の発明によってはじまったように、「ノヴァンセン」に移行するイノベーションを必要としていることを示唆しているとも読める。
私の妄想からすると、おそらくそれは、ガイアを司るあらゆる微生物とコミュニケーションし、自律的に調整するイノベーションではないだろうか。