『ワイズカンパニー: 知識創造から知識実践への新しいモデル』SECIは「セキ」と読む(業界の歴史)
「知識創造企業」の続編で、実践編という位置づけだ。著者は前著でやり残した課題として、以下の3つをあげている。
1)知識創造と知識実践の隔たりを埋める。「実践知」という概念の紹介
2)理論と実践の隔たりを埋める「SECIスパイラルモデル」の紹介(SECIは高次の暗黙知である「知恵」と位置づける)
3)SECIのスパイラルの行き詰まりを解消する手段の提示
本筋からずれるが、以下の3点が妙に気になったので、指摘しておく。ひとつは、本田宗一郎の創業した東海精機重工業は「ゼロ戦の製造で知られる中島飛行機」とあった。これはゼロ戦でなく隼の間違いだろう。二つめは、ホンダジェットの主翼上面エンジン配置のアイデアを天啓のようにヒラメイタのは、ドイツのエンジニア、ルードヴィッヒ・プラントルの1930年代の教科書からだということ。つまり、体系化された本を通じ知識が時空を超えたのである。三つめは、ホンダジェットのコンセプトスケッチが手書きのラフだということ。つまり、3DCADでは「0」を「1」にするような、イノベーティブなアイデアは生まれにくいということ。これらは本書の著者は指摘していないことだが、勝手に学びとることができる。
2)については、SECIモデルの「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」という4つのマトリックが、スパイラルにフロネシス(アリストテレスによる哲学的な概念であり、知的・賢明に思考・判断・実践できる能力を指す)されるような共通善(自社の儲けを追求するだけない)が原動力として必要になる。ここで著者はフロネシスという哲学用語を用いて解説しているが、ピーター・ドラッカーが「マネジメントはリベラル・アーツだ」と述べたことがこの根底にあるのだろう。
3)については、メタファーの例、レトリックの例、矛盾を積極的に受け入れた例などが紹介されている。そして最終章では、人間の重要性を説き、知識と知恵の間に橋を架けることが重要で、SECIこそが高次の暗黙知である「知恵」(フロネシス)だとし、本書による改善ポイントを3つにまとめ締めくくっている。
1)SECIは、時間軸を入れることで、三次元となった
2)SECIは、組織モデルだが、共通善を組み込むと社会モデルとなる
3)SECIは、スパイラルに上昇する
つまりこの本では、SECIスパイラルモデルこそが、知識創造企業の知恵であり、知識創造の実践手段だとしている。「知識創造企業」「ワイズカンパニー」ともに400ページを超える大著なので、本の構成を結論から論理展開するのも高次の暗黙知のひとつのフロネシスになるのではないかと、読者としては感じた次第である。