見出し画像

『博士と狂人』学位のない人と殺人罪、2人のペアシステムが素晴らしい(ペアシステム)

 世界最大の英語辞典『オックスフォード英語辞典』の編纂を行ったマレー氏と、精神科施設に収容中のアメリカ人の元軍医ウィルアムの辞書編纂プロセスの実話映画。

 編集の責任者であるマレー氏は14才で学校を卒業し、独学で学んだ学位のない人。時代背景により意味が変化する単語を過去の文学などからピックアップする能力を有しているが、殺人の罪で精神科施設に収容されているウィリアム氏。

 この2人の友情も素晴らしいが、学位のない人に辞書作りを任せるオックスフォード大学や、最後にウィリアムを国外追放とし、収容施設をリリースする判断をしたウィストン・チャーチル内務大臣など、階級社会であるにも関わらず、英国の柔軟性を感じるシーンは羨ましく感じる。

 辞書の編纂には、中心になる人の強力なエネルギーがいるようだ。マレー博士(辞書の編纂中にオックスフォード大学から博士号を与えられた)は1979年に仕事を開始し、完成したのが1927年なので48年間もの編纂期間にも驚きだが、マレー博士が就任する前、1958年からプロジェクトは開始されており、1928年に全10巻に製本された完全版が出版されるまでなんと70年もの歳月を必要としたプロジェクトだ。

 天才と狂人は紙一重というが、精神科施設に収容されているウィリアム博士はまさに異次元の能力を有しており、辞書の編纂に大きく貢献した。マレー博士が辞書編纂の協力者を一般に求めたため、2人はペアシステムとなることができた。ひとりでは限界があるが、同じ問題意識を持った人が「出会う」ことでミッションの達成度合いは高くなるものだ。

 イタリアではバサリア法で精神科病棟をなくし、地域の社会連帯組合で社会と関わる仕事ができる仕組みがあるが、当時のイギリスで、権威の象徴であるオックスフォード大学で、しかも大英帝国の植民地政策にも影響する重要プロジェクトを、独学で勉強したマレー博士と、精神科施設にいる罪人がペアシステムで行ったという歴史的事実を伝えた貴重な映画だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。