『世界No.1の利益を生みだす トヨタの原価』トヨタの原価管理の再現性を高めるためには工夫が必要(他社の歴史)
トヨタの原価管理を解説した本。筆者は米国ボーイングのコンサルを行っていたが、彼らは設計が終わり開発がはじまり、ある程度の試作品ができた段階で経理部門が原価をはじくという。大切なのは以下の定式だ。
☓ 売価=原価 + 利益(つみあげ形式)
○ 利益=売価(市場価格)ー 原価(デザイン トゥ コスト方式)
それらは、以下の2つの機能を主査というひとりの人の責任で行われる。
1)製品企画(新しいモデルの特徴、品質を技術面、設計面から検討)
2)原価企画(どのようにして利益を出すのか、それを減価面から検討)
原価に影響する材料、設備、工程などの大枠は、設計開発という早い段階で決まる。量産後のムダ取りは微々たるコストダウン。最近、このことを書いた本が、以下のような主査によりオープンにされ発売されている。
『トヨタの製品開発』(白桃書房、安達瑛二)
『トヨタチーフエンジニアの仕事』(講談社、北側尚人)
トヨタは、主査を中心としたTPD(トヨタの製品開発、原価管理を含む)とTPD(トヨタ生産管理)の両輪があることがわかってきたが、TPSは『トヨタ生産管理』(ダイヤモンド社、大野耐一)がベストセラーになったことから、それをベースに普及している。しかし、製品開発のTPDは、それを解説したベストセラーが生まれていないため、まだまだ知られていない。
本書によると、トヨタの製品開発を他社で再現性が高めるとしたら以下が必要条件となる。
1)商品別の原価を正確につかむ(作業員が飲むコーヒーや結束バンドも原価)経理部が、企業会計上の経理と原価管理上の原価に分かれ、経理は過去でなく未来のために現在の原価を明確に示す
2)内外製検討(外注するか内製するかの判断)では、例え外注費が安くとも、社内での人件費、減価償却費を含めて比較する
3)コンペティターの原価も分解して把握し、ベンチマークとしてデータベース化する(IT部門)
4)STPのポジショニングから販売価格を最初に決める(マーケティング)
5)利益=売価(市場価格)ー 原価(デザイン トゥ コスト方式)から目標原価をVEで生み出す
1)から 5)に加えて、それを統合的にマネジメントする主査制度が必要になる。したがって、トヨタの原価管理を他社が真似しようとすると、1)から 5)を体質としてビルトインし、さらに主査制度をビルトインする必要がある。これが他の日本企業にできない部分で、トヨタができている部分となるが、全体を俯瞰しながら、真似しにくい部分と真似できる部分を分ける必要があるだろう。そして段階的に、自社にあったやり方にカスタマイズしながらビルトインしなければヨコテンできない。しかし、本書ではそこまで議論を深めていない。
前回のスタグフレーション(1970年代)で、ほとんどの日本の製造業は、トヨタと同じように 5)のVEでコストダウンを図ったが、トヨタのVEは「1st Look VE」なので、当時他社の行っていた「2nd Look VE」とは違うので、そういった総合的な知識がないと再現性に至らず、以下の結論で終わってしまう。
「トヨタではできだろうが、ウチでは無理だ!」
最後に、著者がTPD(製品開発)の人でなく、TPS(生産管理)の人なので、以下のような個別事例は再現性が高く、活用しやすいのは皮肉だ。
不良を激減させた「4M+1M」手法
1)材料が悪いのか(Material)
2)機械に不具合があるのか(Machine)
3)やり方(方法)が悪いのか(Method)
4)作業員の技能に問題があるのか(Man)
5)良品かどうかを検査する(Measurement)
この5Mは、最後の検査段階で行うのではなく、自分の作業を終えた後に自分自身で行うのがコツだ。そうすることで、不良品が減るのはもちろんだが、「自分たちの技能が悪いわけでない。使っている部品、材料、機械が悪い」というセクショナリズムに陥ることがなくなる。したがって、安易に結果からの統計データに頼るのではなく、何事も「現地現物」で判断すべし、と。