『藻類 生命進化と地球環境を支えてきた奇妙な生き物』藻を知ることは地球を知ることになる(マスクドニード)
藻について知ることは、地球を知ることになる。藻類は地球の沈金術師だ。太陽光を動力とし、二酸化炭素と水と微量のミネラル成分を生物の原料である有機物に変える。私たちが吸い込む空気の50%は藻類が作ったものだ。
人間の脳がチンパンジーの3倍になった理由は何か。それを知るためには、人間と類人猿のハイブリッドであるアウストラロピテシンを調べる必要がある。彼らは海岸線にある固いスゲやヨシを食べていた。巻き貝を食べ、甲殻類を食べた。おそらく、アウストラロピテシンは、湖畔で、脳細胞と神経回路の構築に不可欠な特定のミネラルと脂肪酸を無意識に接種していた。脳のもっとも重要な栄養素はヨウ素(ミネラル)だが、陸にはヨウ素はない。火山は空中にヨウ素を放出するが、最終的に海に落ちる。明らかに、ホモ・サビエンスは、祖先であるアウストラロピテシンが湖畔で食事をしていた事実から、藻類の濃縮されたDHA(脳の膜を構成)とヨウ素を摂取した。
農民は2000年に渡って、家畜に海藻を与えていた。食料が不足したとき、農民は海藻を採取して淡水で洗って家畜に与え、彼らの寿命を伸ばした。一部の海藻は命を救うコロイドとなる。1658年に美濃屋太郎左衛門という宿屋の主人が海藻スープが固体になることから寒天を発見した。この寒天は微生物の培養地となり、炭疽菌、結核、コレラを引き起こす細菌の分離に成功している。寒天は、法医学、病理学、親子鑑定でも大活躍している。イスラエルの陸上養殖技術での藻からの食物連鎖から飼料用魚を使用しない方法や藻類で作られたプラスチックなども紹介されている。
海洋に鉄を加えると、理論的には藻類は30倍に増える。これにより、二酸化炭素を吸収し、地球温暖化を防ぐ。また、海苔の匂いであるDMSP(ジメチルスルホニオプロピオネート)は海藻や植物プランクトンが作る。このDMSPを前駆体として形成されるDMS(硫化ジメチル)が、大気に放出され、酸化して硫酸ゾルになり、水蒸気の凝固核になる。このDMSを核とする雲の形成が気候の維持に果たす役割は大きい。雲ができると太陽の光を遮断するので、地球が吸収する熱量が下がるという2つの方法で地球を冷却する方法を紹介している。
さらに、牛、羊、ヤギなどの反芻動物によるゲップというメタンは、地球温暖化の深刻な原因だが、飼料に海藻を加えることで、メタン排出を減少させることができる。動物性タンパク質ではないが、藻類によるフェークミートも大きな可能性がある。
本書で紹介された藻類研究は、藻類の進化と関連付けて地球進化と生物進化を再構築できることを教えてくれる。地球が人間が住む場所でなくなり、宇宙に移住するというシナリオと、地球のホメオスタシスを司る藻の研究を行うことで、人類がこの地球に住み続けれる方法を獲得するシナリオの2つがあるとすると、本書は後者のシナリオを実現するための最新の実例が満載だ。