クロノマスク
まだ、店頭にマスクがあった頃、
そろそろ雲行きが悪くなりそうだな
と感じながらも、
『マスクの買いだめは、しなくてもいいか、まだあるし』
なんて悠長にしていて、
店の外で娘の買い物を待っていたら、
娘が100均で黒いマスクを買ってきた。
「黒のマスクしてみたかったんだよねー」
その頃はマスクといえば、みんな白で、
手作り布マスクもそんなに普及してなかったし、
黒のマスクは、どぎつくて受け入れられなかった。
こんな時代が来る前でも、手作り布マスクは、一部で流行っていた。
しかし、街中で見かけることは殆ど無かった。
自分も気に入った花柄や、ちょっと可愛らしい柄のダブルガーゼを買って作ってみたものの、
いざ付けて外に出るとなると、
鏡の前で、
「なんか恥ずかしいなぁ、やっぱ、やめとこ」
と言って使わなかった。
その頃のマスクは、専ら花粉症対策と乾燥による喉の保護の為だった。
私の手作りマスクは家の中で使われた。
そんなこんなで
あれやあれやとマスク不足になり、
店頭で入手するのが困難になってくると、
街中に手作りマスクが溢れてだした。
政治家もお父さんたちも色とりどりのマスクを付けるようになった。
私も手作りマスクをたくさん作って家族に渡した。
優しい黄色や水色の無地のものから始まって
どんどん柄物のマスクへと、エスカレートして行った。
そしてとうとう、『私は無理』と
頑なに思っていたあのマスク、
そう、
あんなに受け入れ難かった、
黒のマスクを、私はこの頃、平気でしている。
たった数ヶ月の話だが、人間の慣れと言うか、
群集心理というか、、、人間って不思議だな
と、思った呟きのような話です。