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「もしトラ」ならぬ「もし寅」 寅さん、紐付けるってわかりますか。
寅さんは銀行口座は持っていないと思うけれど、国民健康保険証は持っていると仮定してみます。時空を超えた想像です。
ある日、帝釈天の源公から、「なんだかよくわかんないけど、健康保険証を紐付けるんだって」と聞いて、寅さん、葛飾区役所へ出かけました。マイナンバーカードという言葉はどこかへ消えてしまっています(カタカナに弱そう)。寅さん、窓口で「保険証のどこに穴開けるんだい。このお守りに結びつけてほしいな。」などと言って係の人を驚かせます。
こんな想像をしてしまうのには訳があります。「男はつらいよ」の初期の作品だったと思います。相棒は源公ではなくて、役の名前は覚えていませんが、津坂匡章さんが演じていました。寅さんと二人で区役所に行くと『あなたの声をおきかせください』と書かれた箱が置いてあります。それを見て二人は一緒に「わー、あー」と箱に向けて大きな声を出すのです。でも箱からはなんの反応もない。二人は顔を見合わす(正確な記憶ではないのですが)、というようなシーンがありました。笑ってしまいました。
この行動を振り返ってみれば、紐付けると聞いて、二つ以上のものを実際の紐を使って結ぶ、何かに結びつけることと寅さんが思うのは不思議ではありません。お守りに保険証を結びつけて腹巻きの中に入れれば、もう安心!
『あなたの声をお聞かせください』という表現は今でも見ることがあります。商品の袋などにお客様相談室のフリーダイヤルの番号が書かれていて『あなたの声をお聞かせください』とあります。電話して、そこで歌でも歌ったりしたらお客様相談室の係はびっくりして、いたずら電話と思い込んで電話を切ってしまうでしょう。
区役所、あるいはお客様相談室の案内に見られる『あなたの声をお聞かせください』は、意見、考えを聞かせてほしいという意味なのです。これに対して、実際に声を出せば、驚かれたり、おかしな奴と思われてしまう。でもなぜ、私(私達)は声を聞かせて、と言われたら、意見を言う、と言う意味にとることができるのでしょうか?考えると不思議です。
以前、インドのカースト制の下位の人は、物事を抽象化して考えることができないという文に出会い、その時はよくわからなくて、長いあいだ頭のどこかに引っかかっていたのです。ようやく最近になって以下のように理解するようになりましたが、どうでしょうか?
例えば、壁
/壁に突き当たる/《用例ー研究が壁に突き当たる
/壁を破る/《用例ー10m競走で、10秒の壁を破る》
私たちはこれらをなんの違和感もなく使っていますが、カースト制の下位の人たちにとっては壁はあくまで垂直に建っている、家などの仕切りであって、困難なこと、とか行き詰まり、とは感じていない、感じることができない。物はあくまで物でそれ以上の意味を持たない。これが抽象化できないと言うことでしょうか?とすると寅さんも似ていませんか?
寅さんや、カーストの下位の人たちは、原初(人間が産まれた時)的に持っている感覚が強く残っている人で、それに対して現代人とは、成長するにつれて、あるいは教育によって、その感覚が弱くなったか、消えてしまった人と言えないでしょうか?
先に例に挙げた壁の他に目、耳、手 などの単語を含んだたくさんの慣用句があります。
目が高い 目が飛び出る 目を掛ける・・・
耳に胼胝(たこ)ができる 耳を貸す 耳が痛い・・・
手が出ない 手を染める 手に余る・・・
こういった慣用句を現代人は作ることができるのでしょうか?五感あるいは六感が冴えていた古(いにしえ)の人たちだからこそ生み出すことのできた慣用句のように思えます。寅さんはよく「お前、さしずめ、インテリだな」と言う台詞を言います。これは原初の感覚にあふれた寅さんが、そんな感覚を失った人、特に現代人に向けて言っているように感じられます。両者の間のズレが笑いと涙を巻き起こすのでしょう。
紐付けを調べてみましょう。辞書(1989年発行)には紐付けと言う項目はありません。紐という項目には
①物を束ねたり、結んだり、(以下省略)
②⦅俗語⦆女を働かせて収入をしぼりとる情夫。
③条件をつけるなど、かげで支配しているもの。
②、③の意味などなかなか面白いですね。でもマイナンバーカード、健康保険証などに紐を使うのはどうでしょう。
ついでにと思ってネットで検索してみたら、なんと紐付けるがありました。
/ひもづける/ 二つ以上の事柄の間につながりをもたせる。特にコンピュータで、二つ以上のデータを相互に関連づけたり連結したりすることをいう。
コンピュータやインターネット関連の業界で使われている用語とのことですが、テレビなどではこのような説明を聞いたことがありません。以前から広まっていたのでしょうか?そして、ひもつけるではなくてひもづけるとにごるようです。新しい言葉を知って、勉強になりました。
AIの技術を使って寅さんが語った言葉を集め、AI寅さんを作り(知識がないので間違っていたらごめんなさい)、健康保険証紐付けについての寅さんの声を聞くことができたらどんなことを言うのかしら、と想像しています。