”What Have They Done To The Rain ?” /雨を汚したのは誰?
これは1960年代に、Joan Baez /ジョン・バエズの歌でよくラジオから聞こえてきた歌のタイトルです。核実験によって大気中に放出された放射性物質 が雨に混ざって降ってきて、大地を、人を汚す、そして滅ぼす。そんな内容の歌を静かに、優しい声でジョン・バエズが歌っていました。当時、放射能、ストロンチウム90という核実験に関わる言葉は小学生でも知っていて、私が小さい頃は、雨に直接あたってはいけない、雨にあたると頭がはげてしまうと信じていたように思います。この歌をなぜ今思い出したかと言うと、以下の記事をあらためて読んだからです。
汚された雨ではなく、汚された海のことです。
中村征夫「水中写真のメッセージ」より
中村さんは1977年に初めて東京湾に潜ったとのこと。『・・・水中に体を沈めた瞬間、唇や皮膚にピリッピリッと刺激が走った。薬品によるものだった。こんな危ない所だから、何もいないだろうと思ったら、何かゴソゴソうごめいている。卵を抱えたイソガニが身を守るためか、次々とカメラに体当たりしてくる。汚染の海にも生き物がいるのかと感心しましたね。」
私は、厳しい環境にいながらたくましく生きている生き物の存在に驚嘆すると同時に、ああー、私たちは、いろいろなものを海に捨ててきたのだなあ、と怒りと哀しみが混ざった感情が沸き起こってきました。
「全国の港の海中では、冷蔵庫、電子レンジにテレビなどの粗大ゴミが散乱している。・・・」と中村さんは続けます。
時が経ち、現在では、海はきれいになるどころか、さらに厄介な問題を抱えるようになっています。海に流れついたペットボトルやプラスチック製品が微少なマイクロプラスチックとなり、自然に分解されることなく海中のゴミとなり、加えて、福島第一原子力発電所で発生した汚染水を、処理工程を通ったとは言え、海に流すことが始まっています。これはさらに海を痛めつけることにならないでしょうか。
生命は海から誕生したと言われます。そう言えば、シャルル・トレネが唄うシャンソンのラ・メール(海)/La Mer もよく流行っていました。私は今でもメロディーを口ずさむことができます。フランス語で mer /海 は女性形、日本語の海という漢字の中には 〈母〉 が含まれていると聞いたことがあります。海は母であり生命が生まれるところ。母なる海を汚す人間の「・・・罪深さ・・・勝手な行動が、やがては巡り巡って自分たちの命取りになることを早く分かってほしい」と中村さんは述べておられました。