コロナの時代の言葉
2020年頃から2023年5月(コロナが感染症法上5類に分類されるまで)までをコロナの時代とすると、この頃いろいろなメディアで専門家、政治家、自治体の首長の方々が感染を防ぐための方策を発表していました。その時に使われた言葉について感じたことです。
濃厚接触
濃厚接触と聞いてすぐに頭に浮かんだのは、なぜだかわかりませんが、「濃厚なラブシーン」という言葉です。ですから絶対、手くらいは触れていたに違いないと思っていました。でも違っていたようです。
濃厚という言葉は辞書によれば ① こいさま。こってりしているさま。・・・ミルク、スープ、チョコレートなどによく使われています。でもこの意味で、接触という言葉に濃厚がくっつくのは何か私の持っている言葉の感覚が納得してくれません。
続いて辞書の ② 見込みが強いさま。用例---優勝が濃厚になる。・・・そうか、感染する見込み、可能性が高いと解釈すれば、感染が濃厚となる接触=濃厚接触と理解できます。これなら私の感覚は納得できそうです。
ちなみに辞書には他に ③ 愛情が深いさま。用例---濃厚な場面 があります。これが「濃厚なラブシーン」に当たるのでしょう。
ステイ ホーム
まさかホーム ステイと間違える人はいなかったでしょうが、日本語では表現ではできなかったのでしょうか。「巣ごもり」はどうでしょう。これはどちらかといえば自発的で、誰かに指示されるという意味合いは感じられません。
嵐山光三郎さんの本の中に俳句を詠まれるお父さんの「敬老の日などと言われて家ごもり」という句をがありました。「家ごもり」という言葉は普段は耳にすることはないけれど、ステイ ホームに比べるとやさしい感じがします。家ごもりして下さいと言われれば、それほど緊張感も強くないように思います。
Stay home. と英語の文章にすると、命令文になりますね。例えば、外へ行きたくてたまらない犬が、飼い主に「ステイ ホーム」と言われたとしましょう(犬のしつけにこの言葉があるかどうかは知りませんが)。すると犬は耳を垂れ、悲しそうな眼をして、すごすごと家に入っていく、そんなシーン思い浮かべてしまいます。ということで、英語と日本語の両方を伝えてほしかったと思っています。
ステイ ホームすることも大切だけれどが、適度に身体を動かし、お日さまに当たることも、また口の中を清潔にしておくことも感染から身を守るためには重要とのことです。これらのことは残念ながらあまり伝えられていなかったように思います。
人流
この言葉を聞いた時、インド、ガンジス川に死者の体が流れていく様子が思い浮かびました。
流れるという言葉にはもちろんいろいろな意味がありますが、 島流し、流れ者、流刑(るけい)、流人(るにん) など罪人に関する熟語がいくつかあります。
感染症法上は人流は確定している言葉なのでしょうか。いずれにしても、私にとって新しい用語で、少々落ち着きの悪さを感じました。
使うことができなくなってしまった言葉
謦咳に接する(けいがいにせっする)
謦咳とはせきばらいのこと。尊敬する人にじかにお目にかかる。と辞書にあります。私は、特に学問上の師の身近で教えを乞う場合に使うと理解しています。この言葉はコロナとかインフルエンザが話題になっている間は使えないでしょう。すぐそばで、せきばらいなどされたら、顔を背けたくなりますよね。
ところで、リモートでディスプレイを見ながら学校で授業をする、あるいは会議をする今の時代、謦咳に接するに代わる、新しい言葉は生まれるでしょうか。楽しみです。カタカナの可能性が高いけれど、謦咳に接するみたいな漢語で新語ができるかもしれません。