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デザインのクオリティを上げる、たった一つのコツ

良いデザインを抽象化してから具体化する

僕は3年前からデザインのメンターを始めました。今では、累計で150人以上の未経験者さんやジュニアのデザイナーさんをサポートしています。実際に、課題を続けていくことでデザインスキルが格段に向上し、有名な制作会社に転職した方も多くいます。また、3年や2年以上ずっと契約してくださる方もいます。

この課題は模写からオリジナル化することをベースに、いまのトレンドを学びデザインスキルを上げながら、ポートフォリオを作れる仕組みになっています。その学習フローはnoteに公開しています。

ただ、最近になって学習フローを大幅にアップデートしました。「未経験の方が正しい努力と鍛錬によってプロのデザインスキルを獲得できるのか」「もっと効率のいい教え方やフローはないのか」をずっと考え、メンターとして学んだ結果です。僕も教えることで学ばせてもらっています。

デザインセンスという上手いデザイナーしか持っていない暗黙知を形式知に変換して、デザインのクオリティを上げるコツ。それは、「良いデザインを抽象化して具体化する」ことです。ちょっと難しいので、プロがデザイン中に頭の中で考えていることを言語化してみます。

抽象化とは、例えば「ひまわり」「朝顔」「紫陽花」などを見て、「花」とまとめて認識することを言います。花びらや茎や葉っぱの色や形などの詳細は記憶せず、注目すべき要素や共通の属性を抜き出すことで、人は脳の容量を削減しています。

抽象化
  1. 良いデザインを大量に見てデザイン要素を抽象化し、記憶する

  2. 抽象化したデザイン要素を組み合わせ、案件に合った方向性に具体化する

この1と2を繰り返して、プロのデザイナーはデザインを案件に合わせて仕上げていきます。しかし、これを未経験の方やジュニアデザイナーが、簡単に真似することはできません。「良いデザイン」「デザイン要素の抽象化」「組み合わせ」「案件に合った方向性」などは、長期間のデザイン経験と良い先輩デザイナーからのフィードバックでしか学ぶことができないからです。

しかし、デザインの経験は「大量の模写とパターンの作成の検証」、良い先輩デザイナーのフィードバックは「メンターからのフィードバック」で対応可能です。そこで今回、学習フローのアップデートで模写したデザイン要素を抽象化してから具体化する仕組みを取り入れました。

未経験でもできる、抽象化と具体化の仕組み

まず、いまのトレンドの中で良いデザインとは何かを学び、作れるようになる必要があります。ここで一番効果的なのが、模写です。

「見るだけ」「知識だけ」でわかった気になっても、実際に手を動かしてデザインするのとは大きな違いがあります。写真の考え抜かれたトリミングやトーン調整、フォントの細やかな行間や文字間、配色の比率、レイアウトの統一とジャンプ率などなど、プロのデザイナーなら長年の経験によって直感でできることを、大量の模写を通した鍛錬で習得します。

FVだけを模写

次に、模写したデザインの要素を抽象化します。複数のWebサイトを模写することで、複数のデザイン要素を組み合わせて具体化していきます。アイデアは、新しい組み合わせでしか生まれません。大量に組み合わせてパターンを出し、方向性に合うものを検証します。

模写したFVのデザイン要素を抽象化
抽象化したデザイン要素を組み合わせて具体化

最終的に余白や細やかなあしらいを丁寧に検証して、ブラッシュアップしていきます。これをFV、About、Serviceなど全てのセクションで同じように、模写から抽象化と具体化を繰り返してデザインしていきます。

ブラッシュアップ

この模写から抽象化・具体化の訓練を続けることができれば、確実にデザインスキルを向上させることができます。以下の記事はメンティーさんがデザインしたポートフォリオ集です。すでにプランからは卒業して、希望の制作会社に転職している方もいらっしゃいます。

継続でしかデザインセンスは身につかない

デザインセンスを獲得するには、「良いデザインを抽象化して具体化する」という正しい努力と、地道な継続が唯一の方法です。2、3ヶ月学ぶだけで月30万稼げるなら、世の中のほとんどの人がデザイナーになっているでしょう。

また、ほとんどの1対多のオンライスクールや職業訓練校では、まだデザインセンスの暗黙知を形式知にして学習する仕組みになっていません。アプリケーションの使い方や、Web制作のフローなど一般的な形式知を学ぶことがほとんどです。

しかし、アプリケーションを使えることとデザインが出来ることは全く別のスキルです。これは、ピアノのどこを叩けばドやミが鳴るかを覚えることと、1席1万円のコンサートで演奏する技術があることの違いと同じです。僕のメンタープランには、オンライスクールや職業訓練校を卒業した方が多くいらっしゃいます。スクールに入っただけでデザイナーになれるという過度な期待をしないように、気をつけましょう。

デザインに没頭できるか

デザイナーは作ったものに対して責任を負います。大量のフィードバックが来ることもありますし、締切ぎりぎりまでデザインすることもあるでしょう。キラキラしているように見えるのは虚栄で、地味でストレスが溜まることも多いです。体を壊す人もたくさん見てきました。

それでもデザイナーになる覚悟があるなら、デザイナーに向いているか見極めいるいい方法があります。デザインが好きか嫌いかとかは全く関係ありません。

デザインに没頭できるか。これだけです。デザインしていたら気づいたら朝だった。周りの音がまったく聞こえなかった。ご飯食べるのを忘れていた。こんな経験があれば、あなたはデザイナーに向いています。

参考文献

ゆる言語学ラジオでお馴染みの今井むつみ先生の著書です。
認知学からコミュニケーションの本質を伝えてくれる本ですが、「具体と抽象」による伝え方、思考スタイル「システム1・システム2」と「達人の直感」など、デザイン学習においてとても深い学びがありました。

また、今回の記事は名著「アイデアのつくり方」の「アイデアとは既存の要素の、新しい組み合わせ以外の何ものでもない」という考えの上に立脚しています。読んだのは10年以上前ですが、いまだに影響を受けている本です。
1時間程度で読める本なので読んだことない人はぜひ。


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