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いのちの授業 あの日から(140号)

「鬼の目にも涙」
(月刊「れいろう」より)
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 長期入院する子どもたちにとって、病棟でのイベントは大きな楽しみです。

 二月、景子が入院していた病棟では節分がありました。
 病棟での節分には、「知恵」が必要です。「豆」をどうするか? 床に落ちた豆を子どもたちが食べてしまうかもしれません。折り紙などで小さな「豆」を、何百個も作りました。まさに「知恵豆」です。

 イベント当日、子どもたちは家族とともに会場に集合。
 小さな手に豆を握りしめて、じっと鬼の入場を待ちます。ついに鬼が登場! 「鬼をやっつけろ!」「〇〇先生だぁ」と、子どもたちの“大元気”な声が響きます。みんな大喜び! 鬼は、会場に来れなかった子どもの部屋にも訪問してくれます。治療中、体調不良の子どもたちも、鬼が来てくれると本当に嬉しそうです。
 鬼の願いは一つ。「みんな、笑顔で!」。小児病棟の鬼は、スーパーヒーローなんです。
 
 景子の入院中、部屋で秘密の節分もしました。
 当時、病棟の個室は出窓が少し開けることができました。そこで、こっそり豆を買って来て、ベッドの上に新聞紙を広げました。出窓から「鬼は外」、新聞の上に「福は内」と、小声で豆をまきました。「お父さん、内緒の豆まきができたね。楽しかった」と景子も笑顔いっぱいでした。

 自宅で節分ができたこともあります。
 私はお面をして鬼役、景子と康平は鬼退治です。鬼が子どもを追いかけます。しかし、子どもたちも負けてはいません。「鬼をやっつけろ!」。ついに鬼はダウン。「やったぁ!鬼退治だ」と、景子と康平は飛びはねて大喜びです。

「最後の節分だ」―。
 ふと、その思いが心に浮かびました。そのとき、景子の余命宣告を受けていました。そして、涙がにじんだことを覚えています。鬼の目にも涙が…。

「鬼は外、福は内」。
 幸せへの願いとともに、いのちの思いを感じます。

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