見出し画像

いのちびとメルマガ(98号)

一緒に掃除して ええ大人になろう
(いのちびと2020.5号より)
・・・・・・・・・・・
 Hさんは、ある警察署の生活安全課長になった。
 当時、駅前には二十名程の少年がたむろして、ゴミを散らして大声で騒いでいた。「悪さをする連中が、やがて窃盗などの事件を起こす。大人が放っておかないことが大事です」

 私服姿で少年たちに声をかけた。
 一日目は「なんや!」、二日目は「あっちに行け」、三日目「何か用か?」。ある日、「一緒にゴミを拾おうや」と誘った。少年の一人が拾うと、商店街のおばちゃんが「ありがとう」と声をかけた。やがて二人、三人とゴミを拾うようになり、ゴミを捨てる少年はいなくなっていた。

 別の日、「日曜日、手伝ってくれへんか」とだけ言って少年達を誘った。
「地元の観光センターのトイレ掃除です。『えっ~』と大騒ぎ。大人が始めると、みんな渋々始めてくれました」。その建物には教育委員会が入居していた。偶然、教育長がトイレに来て無言で帰っていった。掃除が終わり、感想発表をしていると教育長が来てくれた。涙を流して「ありがとう」と言って帰った。「『お前ら、大人を感動で泣かせたんや。凄いぞ~』と言うと、みんな最高の顔でした」。十年後、ある少年は自分の結婚式にHさんを招いてくれた。

 地元の高校でも掃除を続けた。
 女子生徒のAさんは、卒業し就職した後も掃除に来てくれた。東日本大震災で被災地ボランティアから帰ってくると封筒を渡してくれた。「一万円と手紙でした。被災地に行く前に五百円募金を集めましたが、その子は募金できませんでした。両親が離婚、お給料は二万円だけ残して実家に送っていました。涙が止まりませんでした…」

 Hさんは、自分のポケットマネーで一万円を募金。手紙と一万円は自分の鞄に今も入れている。「その子は家庭を持っていますが結婚式はしませんでした。その子の晴れの舞台でいつか『ようがんばった!ありがとう』とサプライズしようと思っています」

 地元での掃除は百回を越えて、延べ二千人以上の子ども達が参加している。Hさんは、「いのちの授業」も何度も開催した。

「僕も、弱っちのいじめられっ子でした。弱い子の気持ちはよくわかる。ええ大人になろう、そう思ってくれることが嬉しいです。耕せば、芽が出て花が咲く。一緒にさせてもらいます」

 県警幹部を定年退職。今も、子どもたちとトイレ掃除を続けています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
*会報「いのちびと」から、「心に響く話」を抜粋しメルマガとしてお届けいたします。
(毎週木曜日頃)
*会報「いのちびと」は、4回/1年/1500円で定期購読できます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?