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いのちびとメルマガ(93号)

人生、二人旅
(いのちびと2020.3号より)
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春の日。私は在宅訪問に同行させてもらいました。
医師は慣れたもので、いつもの場所に駐車し、いつもの入口から部屋に入り移動して行きます。
ある老夫婦宅では、六畳の和室に置かれたベッドにご主人が横たわり、奥さんが寄り添っていました。
奥さんは、医師の処置をみつめながらご主人の状態を伝えます。ふと、私に気づいて言われました。
「二人でずっと行商していたんです。高速道路のないときは何十時間も運転して岡山や広島にも行きました。仕事を辞めたら二人で旅行しようと思っていました。でも、お父さんがこうなってしまって…。この人も、きっと寂しいだろうから、その分、私が優しくしてあげようと思ってね」
そして、笑顔でご主人の手を優しくさすります。ご主人も分かったのでしょう、泣き笑いの表情でした。
私の父母を思い浮かべました。
母は、認知症でずっと寝たきりの状態でした。食事をすることも困難になっており、体重は三十数キロしかありません。そんな母を、父が介護していました。毎日、栄養剤やフルーツを混ぜて、ジューサーで母の流動食を作くる。着替え、洗濯、掃除、ヘルパーさんとの打合せなど、もう十年近く続けていました。
あるとき、私に父が言いました。
「今日は気分がいいぞ。少し笑っている」。私には、母の表情の変化が分かりませんでした。「僕が世話をできるうちはするから」が、父の口癖でした。
もう十年以上も前のことです。当時、私は五十歳前でした。「自分の行く道」と感じたことを覚えています。
今、その道に一歩一歩近づいていることを実感しています。
体力的に無理がきかない、物忘れ、言い間違い…。それは妻(淳子さん)もです。「大丈夫?」「一緒に行こうか?」「無理するなよ」…。そんな会話が増えてきました。
人生、二人旅―。
イクメンパパでもなく、素敵な夫でもなく、人生好き放題だった私です。大反省と心かみしめる、この頃です。
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