いのちびとメルマガ(114号)
『子ども一人一人と ゆっくり成長していきたい』
(いのちびと2021.1号より)
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Nさんは、故郷で教師となり、児童十四名の小学校五年生を担任した。
教える基本技術はなく、すべて我流。できなければ叱る=教えると思っていた。
三十歳の冬、本屋である本を手にした。
「医師は、患者が来れば治療できる。教師も、子どもにどう教えるかの具体的な方法がある」というものだった。「跳び箱の教え方、学級経営など、実際にやってみました。子どもがどんどん変わる。教師の成長に、子どもの成長も比例すると気づかされました」。猛烈に勉強を始めた。教育雑誌に論文も掲載された。地元で有志の勉強会も主催した。
ある日、カリスマ教師の授業見学のために、東京の小学校を訪問した。
「大衝撃。登校中、子どもが自主的にゴミを自然に拾ってくる。子どもの動きが一つ一つ違う。そんなことがあるのか。学力をつけるだけではダメ。子どもの心を育てることが重要だと痛感しました」
ある日、A君と自宅までの片道四キロを毎日一緒に歩いて送った。
道に落ちているゴミが気になったが拾えなかった。ある日、拾ってみた。すると、その子はごみを見つけると、「にー(N先生)」と嬉しそうに教えてくれるようになった。その日から、一緒にゴミを拾い続けた。「心の教育が大切だと、口先だけで言っていました。教師の生き方に子どもは共鳴していく。子どもはしっかり見ているのです。自分はまだまだでした」
ある年、学級運営が非常に難しいと言われた学級を担任した。
ノートを開かない、歌わない、暴れる子もいた。今までの指導は通じなかった。「自分がしてきたことは何だったのか? 本当に困っているのは子どもである。ひとり一人の違いを観て、その一人一人に合った指導をする人こそ専門職、教師と教えられました」
Nさんは、小学校生の時、教育界の国宝と言われた東井義雄先生の薫陶を受けた。
先生は、卒業生一人一人に手書きの色紙を渡した。Nさんへの色紙には、「あすがある あさってがあると考えている間は なんにもありはしない かんじんの『今』さえないんだから」とあった。「私が教育とは何かをもがいているとき、偶然、色紙をタンスで発見。逃げ出そうとする私を見抜いておられたのでしょうね。『人生は二度ないのだよ。あなたはどう生きるのだ』との問いにもみえました」
二〇二〇年に定年退職。今は、放課後デイサービス「スローウォーク」を運営している。
「これからの自分の『いのちの使い方』を考えました。自分だからできること。発達障がいなどの子どもの支援や教育相談活動をしています」
「僕は不器用で、人の二倍三倍やっても人並みにできない。でも、そんな僕だからわかること。それは、『ゆっくり成長していけばいい』ということ。『スローウォーク』には、その思いが込められています。子どもたちが自分なりにゆっくり成長できる場を創り、学びを広げてきたいと思います」
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