いのちびとメルマガ(91号)
『いのちのバトンを胸に生きる』
(いのちびと2020.1号「いのちの授業15年」より)
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「景子ちゃんのお父さんですか」
ある日、突然メールが届いた。
景子が入院していた大学病院で勤務していた看護師のIさんだった。
Iさんは、「子どものいのちを守りたい」と小児科で働きだした。
しかし、大学病院の小児病棟の現実は、新人看護師には過酷だった。
自分の未熟さを毎日思い知らされた。
どんなに頑張っても、たくさんの子どもたちが天国に旅立っていった。
「もうダメかも…」。少し楽になれるような気がして、退職願を書いて出勤を続けた。
検温のために景子の病室に入ると声をかけられた。
「お守り、どうぞ」。
折り紙で作った小さなお守りで、中には看護師姿のIさんの似顔絵があった。
「最近、こわい顔しているときがあるよ。優しい看護師さんになれるように」
(自分の心を見すかされているのでは…。病気と闘っている景子ちゃんに心配されるようではダメだ)
景子の優しさに涙が出そうに。でも涙をこらえてこたえた。
「ありがとう、大事にするからね。看護師さん、頑張ります!」
「自分のことばかりを考えていた。たった一つでいい、自分ができることをさせてもらう」
Iさんは退職願を捨てた。その代わりに、景子のお守りを制服のポケットに入れて病棟にたった。看護師となった時だった。
今、Iさんは地元にもどり在宅訪問看護師として働いている。
「Iさんに会えてよかった」と患者さんが言ってくれる。
「景子ちゃん、ありがとう。看護師を辞めていたら、患者さんからそんな言葉をもらうこともなかったよねぇ」。
今も制服の名札には「景子ちゃんのお守り」が入っている。
この二十一年ぶりの再会は、運命の偶然だった。「いのちの授業」をテレビニュースでみてメールをくれたのだ。
「景子ちゃんに会えたから、今の私があります。景子ちゃんは、今もあざやかに私の中にいます」。私も胸が熱くなった。
いのちは預かりもの、お返しするものと申しました。
でも遺せるものがある。
いのちのバトン―である。
一途に生きるとき、いのちのバトンとなって大切な人にバトンタッチッされていく。
この思いを、私の志として、「いのちの授業」を通じて、いのちのバトンタッチを続けていきたいと思う。
その日が来るまで…。
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