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毒親育ち視点で見るジャンケットバンク デッドマンズ・キャンドルライト肆

5ラウンドが終了した後で

 タイマーが0となれば致死量の毒が注入される。そして、それまでの猶予が34分になった獅子神。ライフ・イズ・オークショニア戦の「もしかして人生最後の5分」に比べれば長いし、ギリギリ意識を保てる電流を流された訳でもない。だが、たいまつの死者を歓迎してしまったことで、獅子神は生命の危機を感じるには充分な位に追い詰められていた。

「命をかけてまでオレは何がしたかった?
 オレはスゲェ奴になりたかった
いつまで経ってもオレはピカピカにならない」

 義務教育期間の合唱曲として歌われがちで、日常のエンディング曲としても使われた歌には「命かけてと 誓った日から」と言う歌詞がある。思えば、その歌詞はかなり重い。子供向けの合唱曲で、命をチップにするもんじゃない。
 モノローグで、獅子神が「ピカピカに憧れていたこと」が再度語られた。そして、具体的な目標は分からないが、とにかくスゲェ奴になりたかった獅子神。夢はまだ確定していないけど、とにかくスゲェ奴になりたいとは、厨二病っぽさもある。なお、毒親育ちは将来に夢を持てないことが多い為、この考えを否定出来ない。具体的に将来を思い描けはしないが、現状から抜け出したい。そして、その為には莫大な労力が要る。それが、スゲェ奴になりたかったと表現されても何ら不思議はない。

 一方、ピカピカしている叶は語る。

「答え合わせってのはいつも
思ってたより早く来るモンだ」

「お前は死ぬんだ
 キッチリ時間通りにな
 見るべきモノはない
 オレはもう飽きたよ」

 4本のロウソクから放出された毒で、獅子神は派手に流血していた。それを観測した後で発せられた言葉は、獅子神を追い詰める効果があっただろうか?

 なお、観戦組はジャンクフードを食べていた。相変わらず小さなドーナツやら、バリフライ等の駄菓子を食べる真経津。ポテトチップスを手に取りながら画面を見つめる村雨。多分、パンダのカルパスもその内食べる。でっか盛りを食し、デザートにキャラメルを嗜むのが天堂。どうやら、自分達で料理をするのは諦めたようだ。

6ラウンド結果

叶   4:53
獅子神 0:29

 叶がゲートキーパー側のラウンドでは、たいまつを防ぎ、ハートを1個増やして終了した。ここまでずっと、獅子神は叶の掌手の上である。そして、それは獅子神も自覚していた。

「そりゃ弱ぇよなおんぶにだっこじゃあよ
 オレは死線を潜り抜けて前よりも遥かに強くなった
 だがそれは引率の先生はついてたからできたことだ」

 引率の先生は、ライフ・イズ・オークショニア戦で、獅子神を死の淵に追いやってはいた。だが、もし獅子神が覚醒しなくとも、死なないように選択はしていた。その他にも、引率の先生は大事なことを教えてくれた。銀行が大事にしているのは、ギャンブラーではなくVIPだと。

「誰かをブチのめしたいんなら自分だけの力でやらなきゃダメなんだ
 オレが1番ウンザリしてんだ自分の不甲斐なさに
 オレはオメーを殺さなきゃなんねぇ
 ピカピカのオメーを超えるためにな」

 毒で朦朧としながらも、自分に足りないモノを自覚した獅子神。そして、獅子神は叶相手に宣戦布告をする。

「大口は叩かねぇ虚勢も言い訳も弱音も吐かねぇ
 オレは命を賭けるオメーを倒すためにな」

 ここで、命はチップになりました。「命懸け」と言う単語はあるし、平仮名で「命をかける」と書いても、それは画数の多い「懸け」を漢字で書くのが面倒だと避けた結果かも知れない。ともあれ、平仮名表記だった「命をかける」が、ここに来て「命を賭ける」になった。アニメやドラマならば、字幕が無ければ分からない表現。だからこそ、日本語は面白い。

 そして、獅子神の決意に対して、叶は伝える。

「敬一君オレは好きなモノのことだけ考えたい
 誰だってそうだ好きな人達に囲まれて好きなモノや人について話したい
 でも誰もがなぜだかそうはしないんだ
 嫌いな奴の不快さや醜いものの汚さばかり考えて
 わざわざ自分で自分の世界を汚している」

 流石はストリーマー。アンチに執着された経験も有るだろうし、嫌なら見なければ済むものを「わざわざ絡んでくる奴らの厄介さ」も知っているだろう。下手したら、アンチは相手を叩きたいが為に、ファンよりも情報を集めている。金田一少年の事件簿でも、犯人が「亡くなった恋人をネットで叩いた奴らに復讐する事件」が有る。その事件の被害者の1人は、わざわざファイルで情報を管理して(なお、御手洗と違いスッキリしたデスクトップ)まで誰かを叩いていた。それは、余りにも憐れな生き方だった。

「バカバカしいと思わない?
 だって誰かのことをずっと考え続けるって点において
 それは恋とかわりないんだから」

 それが、バカバカしいとは思う。また、「誰かのことをずっと考え続ける点」だけに注目すれば、確かに恋と変わりない。心理学観点からすれば、好きの反対は無関心なのだから。

「好きな奴でいてくれよ
 せめて最期だけでも」

 獅子神さんに対して「せめて最期だけでも」と言い放つ叶。現時点では、好きな奴なのかどうなのか。その表情からは判明しない。

7ラウンド結果


叶   4:48
獅子神 0:24
 →2分の1
 →0:12

 7ラウンドで、獅子神の全てのロウソクに火が灯された。これにより、残り時間は12分となり、毒を吸い込み続けたことで目も虚ろな獅子神。それでも、獅子神は諦めてはいなかった。

「もしもオレがオメーくらい強かったら好きなモノだけに囲まれてストレス無く愉快に暮らせるんだろうな」

「だが忘れちゃいねぇか?
 のし上がったピカピカ野郎
 反吐が出るそどムカつくモノからしか学べねぇ事があるんだよ」

 獅子神が「のし上がったピカピカ野郎」と表現した辺り、叶も自らと同じか似た境遇にいたと判断したのだろうか? だからこそ、何から学んだかにも言及したのだろうか?

 獅子神は、口には出さなくとも、ピカピカについて考えた。

(ピカピカな奴の周りにはピカピカなモノが集まり
 薄汚れた奴の近くには薄汚ねぇモノが常にうろつく
 扉を開けるたった一つの方法は金でも名誉でも運でもなく汚ねぇモンの醜さをじっと見続ける覚悟だ)

 だが、腹を決めた獅子神に対して叶は告げる。

「残りの12分何をどう頑張ってもお前の死は避けられない
 オレに言い残してくれ短い人生の感想を」

 獅子神は、叶の言葉を受けて話す。それは、人生の感想なのか、それともーー

「オメーらみたいなピカピカには何かを持っていて欲しかった
 だがピカピカをねたみ汚ねぇ奴らを見下して死ぬ直前まで来てようやく気付いたぜ
 そんなんだからオレの人生は泥に使ったままなんだってな」

 初登場時、見下せる奴らに王冠を掲げさせていた獅子神。偽りの王冠は引率の先生によって切除されたが、ピカピカを嫉むことは止められなかったようだ。そして、その思考回路こそが、自らの弱点であったことに獅子神は気付いた。それが、これからの展開にどう関わるか? それは、読んでからのお楽しみ。

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伊野聖月
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